コラム

トランプが南米ギャング団幹部を国外追放、司法との対決に直面

2025年03月19日(水)15時00分

原因は、レバノン南部を実効支配しているヒズボラの幹部の葬儀に、縁者として参列したことを重く見て、反米的な人物という判断がされたからだと言われています。こちらの判断にもICEが関与しており、通常の運用ではあり得ない越権行為だという見方があります。また、この事件においても国外退去処分は、連邦判事の決定を無視して行われています。

このようにICEが既存の法体系を無視するかのように振る舞っているのは、合衆国憲法への深刻な挑戦だという議論が広がっています。そんな中で、連邦最高裁判所のロバーツ長官は、非常に慎重な言い回しではありますが、ハッキリと大統領を批判して話題になりました。


ロバーツ長官は「政府が司法の決定に同意できないことは想定し得る。けれども建国以来、アメリカはそうした場合に判事を罷免するという解決法を取ることは避けてきた」と、どこにも「トランプ」という名前は挙げずに、しかし、厳しく大統領を批判したのでした。

三権の長であるロバーツ長官が、司法権を代表して、同じく三権の長である行政府のトランプ大統領に、このような書簡を送るというのは非常に重たい意味を持ちます。トランプ政権は、オバマ政権の任命した判事は偏向しているので、どんどんクビにすると息巻いていますが、ロバーツ書簡はこれに強く警告を発した内容となっているからです。

景気への認識から本格的な株安を招いてしまっているトランプ政権ですが、今度は、司法権との全面対立という新たな問題を抱え込んだ格好です。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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