現代の中南米系移民と80年前の日系人は重なる...トランプは「アメリカの黒歴史」を再び繰り返すのか
Nikkei: ICE Age Returns

6月、ロサンゼルスでICEによる移民拘束に抗議する人々 DANIEL COLEーREUTERS
<トランプ政権下で設置された移民収容所に対し、80年前に強制収容の憂き目にあった日系人の子孫たちが抗議の声を挙げている>
8月中旬テキサス州エルパソに移民の収容施設が設置されると、日系アメリカ人社会から再び強い抗議の声が上がった。施設が建った陸軍基地は、第2次大戦中に日系人の強制収容所があった場所だ。
厳しい不法移民政策を掲げるドナルド・トランプ大統領の下、移民関税執行局(ICE)は収容施設を増設し、おびただしい数の人々を拘束している。これに対し日系人は、強制収容の記憶を呼び覚ますとして抗議してきた。
トランプ政権は1798年制定の「敵性外国人法」を第2次大戦以来初めて復活させ、ICEの権限を拡大している。日系人の強制収容の主な法的根拠となったのが、敵性外国人の拘束と強制送還を可能にするこの法律だった。
ICEはトランプの期待に応えようと、2024年に閉鎖されたサンフランシスコ近郊ダブリンにある刑務所を再利用するなどして、各地で収容所の増設を進める。
7月、ダブリンで開かれた抗議集会には大勢の日系人が参加し、ICEの取り締まりは12万人以上の日系人の強制収容に至った歴史をなぞっていると警鐘を鳴らした。ICEの内部資料によれば、現在施設に収容されている不法移民は全米で6万人に上るという。
人種や民族は無関係だというのが国土安全保障省の主張だが、人権団体はICEが中南米系を狙い撃ちにしていると批判する。
ダブリンの抗議集会に参加した日系のリン・ヤマシタは、ABCニュースの取材に対してこう述べた。「私がここに来たのは、日系人が収容所に送られたから。私の父も収容所に送られた。二度と起きてはならないことが、再び起きている。恥ずべきことだ」
ダグラス・ヨシダは「国が侵略されたわけでもないのに、トランプは適正な手続きを踏まずに移民を強制送還しようと敵性外国人法を利用している」と、異議を唱えた。
敵性外国人と呼ばれて
ICEは中南米系コミュニティーを標的としているとカリフォルニアの日系人コミュニティーは早いうちから訴え、戦時中の強制収容との類似性を指摘してきた。
日系人の抗議はある出来事をきっかけに、全米で注目を浴びた。
8月14日、ロサンゼルスの全米日系人博物館(JANM)でカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムが記者会見を始めると、数十人の武装したICE捜査官が博物館の敷地に押し寄せ、男性を1人拘束した。
JANMは非常に象徴的な場所だ。日系人は1942年、後に博物館が建つまさにこの場所からバスに乗せられ、強制収容所に送られたのだ。
JANMは戦時中の収容所とICEの収容施設内に設けられた檻の写真を並べてSNSに投稿した。家族が引き裂かれ、心に深い傷を負うのはどちらのケースも変わらない。
第2次大戦が始まる何十年も前から、アメリカでは中国と日本からの移民の流入を止めるための法律がいくつも作られた。
アジア系移民は激しい人種差別にさらされた。白人が営む多くの商店で買い物ができず、プールなどの娯楽施設も利用できなかった。白人の多い地域では、不動産を買うのも借りるのも難しかった。それでも彼らは懸命に働いて商売を立ち上げ、農場を経営し、工場に労働力を提供した。
そして現在中南米系はアメリカの労働人口の約19%を占める。それでも彼らは人種差別を日常的に体験している。
太平洋戦争が勃発すると、日系人は基本的に住んでいた家を退去させられ、収容所に送られた。フランクリン・ルーズベルト大統領が42年2月に署名した「大統領令9066号」に基づく措置だった。
国家安全保障の脅威になり得る者全てを西海岸から退去させることを、大統領令は許可した。特定の集団を名指ししたわけではないが、強制収容されたのはほぼ例外なく日系人だった。日本国籍を持つ者だけでなく、米国で生まれた子供たちも対象になった。
無視される歴史の教訓
第2次大戦中の敵性外国人であれ、トランプ政権が摘発の対象にするとした「凶悪犯罪を犯した不法移民」であれ、収容の目的は「好ましからざる者」の排除にある。
だが拘束された移民の過半数に犯罪歴がなく、中には米国市民もいることを最近のデータは示す。報道によればICEには「不法移民を1日3000人逮捕する」というノルマがあり、その達成にきゅうきゅうとしているらしい。
第2次トランプ政権の発足以来、帰化申請の際に必要書類の提出を忘れるといった些細なミスで逮捕されるケースまであるという。たとえ合法的に入国しても、ICEの標的にされないとは限らない。急ごしらえの施設に、今では数万人が収容されている。
第2次大戦中は日系人を収容するための「強制収容所」が西部や南部に10カ所建設され、日系人は人身保護令状の対象から外された。つまり法廷で自らを弁護する権利を奪われ、公正な審理を受けられずに無期限に拘束される恐れに直面した。
5月、トランプ政権は人身保護令状の一時停止を検討していると報じられた。そうなれば不法移民は無期限に施設に収容され、公正な審理を受ける権利を奪われかねない。
1988年、米政府は日系人に対して「深刻な不正義」を行ったことを認めて謝罪し、強制収容が「人種偏見」と「戦時ヒステリー」によるものだったと結論した。
だがアメリカがこの歴史から教訓を得たかどうかは定かでない。何か学んだのだとしたら、なぜ今、ないがしろにするのだろう。
The Conversation
Rachel Pistol, Senior Research Fellow, University of Southampton
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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