受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
A “Steel Porcupine” Strategy
英軍事施設で戦車の操縦・射撃訓練を受けるウクライナ兵と面会したゼレンスキー(2023年2月) ANDREW MATTHEWSーPOOLーREUTERS
<トランプの和平案が示すのは、ウクライナにとって決して信頼できる未来ではない。空虚な安全保証と欧米の後ろ向きな支援を前に、ウクライナは「誰かが守ってくれる」という幻想を捨て、自国軍の強化を最優先課題としている>
▼目次
プーチンに好意を抱く「ビジネスマン」トランプには期待できない
ロシアの「餌食」であり続けるしかないのか?
ロシアの対ウクライナ戦争を終わらせて平和を回復するための「取引」には、何らかの「安全の保証」が盛り込まれるらしい。もしもロシアが再び攻めてきた場合は諸外国がウクライナを支援するという確約だ。しかしそんな約束が絶対に守られるかといえば、そこのところは不透明だ。
アメリカのトランプ政権が望むのはロシアとの商取引だから、いざとなればウクライナ支援に及び腰になるのではないか。そんな和平の「取引」は単なる時間稼ぎで、ロシアの次なる侵攻は止められない──ウクライナ側には、現にそんな懸念がある。
だから各国の支持を取り付けるために世界を飛び回っているウクライナ政府の代表団も、最近は交渉戦略を修正してきた。そして今や欧州諸国との間で、恒久的な平和はウクライナ自身の軍事力で守るしかないという認識を共有しつつある。そもそもアメリカは米軍派遣の可能性を完全に排除しているし、欧州諸国にもロシアと一戦交える覚悟はないからだ。
そうであれば、ウクライナが取るべき最善の道は給与でも訓練でも、装備でも士気でもロシアに優る軍隊を構築し、傭兵や犯罪者に頼るロシア軍に対抗することではないか。国内の防衛産業を育て、生産力と技術力の両方でロシアを上回る必要もあるだろう。
パレスチナ自治区ガザでの戦争でもそうだが、ドナルド・トランプ米大統領は先に和平を宣言し、詳細は後で詰めればいいと考えている。その場合に有利なのはイスラエルのように軍事力で勝る国だ。ウクライナも、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長の言葉を借りるなら「鋼のヤマアラシ」になるしかない。ヨーロッパ外交評議会(ECFR)のラファエル・ロスに言わせれば、要するに「ロシアがのみ込めないほど強い国になれということ」だ。





