コラム

施政方針演説で気を吐くトランプに、反転攻勢の契機がつかめない米民主党

2025年03月06日(木)23時00分

トランプの施政方針演説は史上最長の100分近くに及んだ  Josh Morgan-USA TODAY Network/REUTERS

<印象的だったのは極論に満ちたトランプの演説より、野党民主党の低調ぶり>

現地時間の3月4日(火)夜、トランプ米大統領は連邦の上下両院議会で施政方針演説を行いました。就任直後の場合は、一般教書演説とは呼びませんが、時期も位置づけも同じです。まるで選挙演説のように一方的に自分の主張をまくし立て、野党を敵視する姿勢は、歴史的に見て異様なものでした。またほぼ100分に迫ったという長さは、史上最長なのだそうです。ですが、これもトランプ氏の最近の冗長な選挙演説の延長だと思えば納得できます。

従って、内容に特に新鮮味はありませんでした。特記すべきことと言えば、物別れに終わったウクライナのゼレンスキー大統領とのホワイトハウス会談について「その後」が語られていたことです。会談決裂の後に、この演説の直前に同大統領から改めて和平仲介を依頼する書簡が来たということ、同時並行でロシアのプーチン大統領との折衝を行っているということが披露されていました。


また、以前から主張していたグリーンランドとパナマ運河領有の野心については、このような公式の場でも改めて語られたことに、強い違和感がありました。またパナマ運河の件では、演説の場で直接担当するように命じられていたマルコ・ルビオ国務長官が引きつった表情を浮かべていたのが印象的でした。そう言えば、ゼレンスキー氏との会談で怒号が飛び交った際にも、その場に参加していたルビオ氏は硬直した無表情で通しており、お笑い番組でその困惑した表情の物真似がされていたぐらいです。

日本の関連では、まずアラスカのLPGパイプライン建設に関しては、日本と韓国が乗り気だとして、天文学的な金額の投資を期待するような話に膨張させていました。怖いと思ったのは、製鉄所に長年勤務しているという男性を、ゲストとして紹介した場面です。製鉄は国の誇りだというのですが、これは暗に日鉄のUSスチール買収への不快感の表明とも取れ、不気味なシーンでした。

民主党の存在感は全くなし

印象的だったのは、トランプ氏の演説が極論に満ちていたということよりも、野党民主党の低調ぶりでした。民主党の議員たちは、この場で語られたことのほぼ全てに反対であるのは間違いないでしょう。それは、それでいいと思います。そして、特に連邦下院に関しては定数435で3人造反すれば共和党の法案を止められる中では、できることはいくらでもあります。

そんな中で、この大統領演説というのは、多くのテレビ局で生中継されることもあり、そこで議場のほぼ半数を占める民主党議員団が、どのように振る舞うのかは重要なはずです。少なくとも1月以降、全くメディアに取り上げられて来なかった民主党の政治家たちが、どう考え、どう感じているのかを世論に訴える久しぶりのチャンスだからです。

しかしながら、彼らの存在感は全くありませんでした。1人だけ頑強に抵抗を試みたのは、テキサス州選出のアル・グリーン下院議員でした。開始早々大統領に向かって「アンタには、そんな権限はないぞ」と吠えるなど、ヤジ攻勢を浴びせた結果、ジョンソン議長から退場命令を食らっていました。気骨があるとも言えますが、肝心のヤジのほとんどは内容が全国中継では聞こえなかったので、結局何の効果もなかったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ロは「張り子の虎」に反発 欧州が挑発な

ワールド

プーチン氏「原発周辺への攻撃」を非難、ウクライナ原

ワールド

西側との対立、冷戦でなく「激しい」戦い ロシア外務

ワールド

スウェーデン首相、ウクライナ大統領と戦闘機供与巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story