コラム

米下院が「つなぎ予算」可決、アメリカの孤立主義が加速する?

2023年11月15日(水)14時00分

結果的に、共和党は賛成127、反対93、民主党は賛成209、反対2ということで、超党派の賛成を得て法案は下院では可決されました。超党派といっても、賛成したのは議長の反対党である民主党のほうが多く、議長の出身政党である共和党は深刻な分裂に至っています。特にこの間、マッカーシー前議長を解任し、その後も議長人事を混乱させ、また政府閉鎖を人質に取って過激な歳出カットを狙った保守派「フリーダム・コーカス」のメンバーは、元は同志だと思っていたジョンソン議長への怒りをあらわにしていました。

今回の議会下院における「つなぎ予算」可決ですが、共和党の内部分裂ということを改めて強く印象付けたのは事実です。トランプ派と重なる保守強硬派と、主流派の溝は余りにも深いということです。これは、大統領選の候補選びにおけるトランプの独走と、これを止めようとするニッキー・ヘイリー候補などの動きとも重なってきます。

その一方で、イスラエルはともかく、ウクライナへの軍事援予算の「分離」があっさり通ってしまったのは意外でした。共和党の保守派だけでなく、議会下院全体に「支援疲れ」がある、と言ったら言い過ぎかもしれません。ですが、アメリカの中で、世界のトラブルからは距離を置きたいという、左右双方の孤立主義がより強まっている可能性はあると思います。

仮にアメリカが現在よりも更に孤立主義を強める、つまり世界の安全保障におけるパワーバランスを確保する責任から遠ざかるということは、それだけ世界が不安定化する危険が高まるということです。今回の「軍事支援の分離」が一過性のものなのか、あるいはイスラエルとウクライナそれぞれの個別の問題として理解できるのか、それともアメリカ全体に孤立主義が進行しているのか、その見極めは重要な問題です。

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story