コラム

トランプにかかわったエリート弁護士たちが人生どん底に...今や誰も前大統領の弁護をやりたがらない納得の訳

2023年11月07日(火)14時53分
ドナルド・トランプ

裁判をうまく乗り切れるか(10月25日、ニューヨークの裁判所で) JEENAH MOON―REUTERS

<トランプの元弁護士たちが相次いで司法取引で寝返り、一連の裁判はドラマのような展開に。そして現在、トランプの弁護は誰も引き受けたがらず、「超軽量級」の弁護士が務めるはめに>

アリナ・ハバは、見れば見るほど再現ドラマの役者に見えてくる。この人物が数年前まで「世界最強の権力者」だった男の弁護士だとはにわかに信じ難い。法律家としての実績も経験もあまりに乏しい。

ドナルド・トランプ前米大統領にとっては、一連の裁判をうまく乗り切れるかどうかで残りの人生が大きく左右される。それなのになぜこんな軽量級の弁護士を抜擢したのか。

理由は単純だ。まともな弁護士は誰も引き受けてくれないのである。過去にトランプの弁護士を務めた面々の現状を見てほしい。

マイケル・コーエン弁護士は、反トランプの急先鋒に転じ、トランプが金融機関から有利な条件で融資を受けるために資産評価額を大幅に水増しした経緯を裁判所で証言した。トランプが国家安全保障関連の機密書類の扱いをめぐり起訴されている事件では、エバン・コーコラン弁護士がトランプとのやりとりに関する文書の提出を命じられた。

2020年大統領選の結果を覆そうと計画したジョン・イーストマン弁護士は、弁護士倫理違反の疑いで裁判所の審理を受けるという屈辱を味わっている。裁判の結果次第では、弁護士資格を失う可能性もある。弁護士たちが法的な苦境に陥っているのは意外でないと、トランプ政権のホワイトハウスで仕事をした法律家の1人は述べている。

トランプは弁護士たちに倫理と先例を無視するよう強く求めたからだ。しかもトランプは、自分のために汚れ仕事に手を染めて窮地に立たされた弁護士たちを助けないだけではない。彼らと完全に距離を置こうとしている。

20年大統領選でジョージア州の選挙結果に干渉した容疑でトランプと共に起訴されたシドニー・パウエル弁護士が有罪を認める答弁をすると、トランプはこうコメントした──「パウエル氏は私の弁護士ではなかった。弁護士だったことは一度もない」。完全に手のひらを返した格好だ。

トランプは最後は全員と敵対する

トランプと弁護士たちの関係は、テレビのリアリティー番組も顔負けのドロドロの展開になっている。パウエルを含む3人の弁護士は、ジョージア州の選挙干渉事件で検察側との司法取引に応じた。これほどの大事件で弁護士が検察側に「寝返った」ケースは記憶にないと、多くの司法専門家は語っている。

弁護士たちが有罪を認める取引をしたことで、トランプが自らの守り手だった人たちにより、裁判で痛い目に遭わされる可能性は高いと言えそうだ。こうしたドラマチックな展開の底流には、トランプ・ワールドにおける大きな真理が隠れている。

トランプは、周囲の人たちに絶対的な忠誠を要求する一方で、自分自身は決してその人たちを大切にしないのだ。トランプは最終的に、全ての人に憎しみを抱く。その結果として、本人が自称してきた「史上最高の大統領」と正反対の人物になりつつあるのかもしれない。

トランプは、自身の政権下でアメリカの安全がかつてなく高まったと胸を張ったが、ジェームズ・マティス、マイク・ポンペオ、レックス・ティラーソン、ジョン・ボルトン、マイク・ペンスといった外交・安全保障チームの高官たちを憎み、遠ざけた。

いま生活の拠点を置くフロリダ州のロン・デサンティス知事とも激しくいがみ合い、看板政策だった大規模減税の実現に尽力してくれたポール・ライアン元下院議長に対しても軽蔑を隠さなくなった。これまでトランプは、結局はあらゆる人物に攻撃の刃(やいば)を向けてきた。

アメリカ国民は、「法的迫害」を批判するトランプの幼稚な主張にいつまでも付き合っている場合ではない。次に攻撃の標的にされるのは、アメリカ国民かもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story