コラム

トランプのSNSアカウント停止に、アメリカ国内で異論が出ない理由

2021年01月14日(木)15時40分

例えばですが、すでにペンス副大統領の議事進行により、上下両院が憲法の規定に基づいて「バイデン当選」を承認していますが、それにもかかわらず、仮にトランプが「選挙は盗まれた。奪われた政権を奪還せよ」というツイートをしたとします。1月6日以前であれば、一方的に「もう一つの真実」を語っているだけという評価も可能でした。

ですが、こうした表現が暴力を誘発することが証明された現状では、仮にこうしたツイートがされた場合、他に手段がないなかで「暴力による新大統領就任の妨害」を扇動していると判断せざるを得ないわけです。それは、「政権を奪還せよ」という言葉に刺激されて、武装蜂起するようなグループが全国に存在することが証明されたからです。

このSNSのアカウント停止という措置については、民間企業による言論の自由の否定だという意見が、アメリカ国外では議論されているようです。ですが、この点に関しては、アメリカでは多数意見としては大きな異論は出ていません。その理由は4点指摘できます。

民間主導の危機管理

1点目は、ここまでお話してきたような、切迫した危険を回避するという緊急避難的な措置という意味合いです。

2点目は、この種の暴力誘発ツイートを国家権力によって禁止する道を残すと、それこそ言論の自由を国家が規制することになります。民間が自己規制することは、国家による言論統制を防止するという意味合いもあると思われます。

3点目は、国家による統制を懸念する以前に、規制すべき対象が大統領職にあり、現時点では規制する権限を有しているというパラドックスの中では、民間主導で危機管理をするしかないという状況があります。

4点目に、アメリカ社会の慣行として、社会的な広がりをもった紛争についても、民事の枠組みで処理するという伝統があります。例えば、60年代末から大きな問題となった産業公害については、国の規制と同時に、個々のケースについては民事裁判で処理してきています。

もちろん問題はあります。確かにGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)やツイッター社など巨大化したテック企業が、文化や政治に関する事実上の規制を行えるというのは、弊害も多くあるでしょう。ですが、今回の判断については、何よりも緊急避難措置として、しかし徹底した対応として取られたものだということで、アメリカでは理解されているのです。

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米超党派議員団、台湾議会に防衛予算案承認求める書簡

ワールド

台湾、26年の経済成長率予測7.71% AI需要背

ビジネス

スイスCPI、1月は前年比+0.1%、中銀目標下限

ワールド

バングラ政変後初の総選挙、主要野党が圧勝 3分の2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 7
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story