コラム

トランプのSNSアカウント停止に、アメリカ国内で異論が出ない理由

2021年01月14日(木)15時40分

13日にツイッター経由でビデオメッセージを出したトランプ大統領 The White House via Twitter/REUTERS

<トランプ派の暴動は首都ワシントンだけでなく、全米各州の「差し迫った」危機となっている>

先週6日に発生した、米連邦議会の議事堂に暴徒が乱入した事件では、トランプ大統領に対する連邦下院の弾劾決議が可決されました。議会への「進軍」を扇動したことが「内乱扇動罪」であるとして、民主党議員の全員に加えて共和党議員からも10人の賛成が出た結果です。

弾劾案は上院に送られ、上院は最高裁判所長官を裁判長とする弾劾裁判所を開くことになりますが、現時点では早い時点での審議が行われるかどうかは不透明です。また上院(弾劾裁判所)での有罪の評決には100議席中の67票の賛成が必要ですが、共和党議員17人の賛成を得る見通しは立っていません。

現時点では、弾劾裁判の再開は「バイデン新政権が軌道に乗った後」に、「過去の大統領の犯罪を審理して、有罪にして将来の立候補資格を剥奪するかを決する」という可能性が取り沙汰されています。その一方で、20日の新大統領就任を前にトランプ派による深刻な暴力の兆候が出ているので、緊急避難的に大統領の権力を1日でも早く停止する必要が出た場合には共和党も審議に応じるかもしれません。

現時点でのアメリカの政局は、とにかく「今ここにある危機」であるトランプ派の暴力を、いかにして押さえ込むかが焦点となっています。一部には、17日の日曜日に「武装総決起」が行われるという情報もあり、20日に就任式が行われる首都ワシントンだけでなく、全国各州の州政府庁舎は厳戒態勢となっています。

トランプ個人に対する一連の「SNSアカウント停止」の措置に関しては、このように切迫した状況が背景にあります。

「穏健」メッセージはスルーされる

2017年の就任以来、トランプは白人至上主義者のテロへの賛否など、自分の立ち位置を問われる事態においては、プロンプターを使って原稿を読み上げる演説では「建前」を、そしてツイッターなどのSNSでは「ホンネ」をというように、メッセージ発信を使い分けてきました。

その結果として、ツイッターのメッセージについては、全国の過激なトランプ派が「真に受けて」直接行動に走ってしまう一方で、テレビ会見などで「穏健な」メッセージを喋っても、「あれは建前を言わされているだけ」だとして「スルー」してしまうという傾向が見えています。

そんななかで、この1月17日、そして20日に向かって、トランプが何らかのメッセージを発信すると「どんな些細な表現であっても、暴力を誘発する」可能性は否定できない状況となっています。ですから、SNSを運営する各社は、切迫した暴力の可能性を避けるために、「緊急避難的に」トランプのSNSを停止する措置に出たのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story