コラム

前代未聞の議会乱入で現実となったアメリカの「権力の空白」

2021年01月07日(木)14時00分

6日の集会で大統領選の結果を認めないと支持者を煽ったトランプ Jim Bourg-REUTERS

<支持者の暴挙を数時間にわたって放置したトランプには、大統領職務を停止するべきという批判まで出ている>

今週6日水曜、米大統領選挙の結果を最終的に上下両院が確認する手続きが進められていた途中で、議会議事堂にトランプ派のデモ隊が乱入し、現時点では1人が死亡するという前代未聞の不祥事が発生しました(その後の報道では計4人の死亡を確認)。全国から集まってワシントンDCのホテルなどに陣取っていたデモ隊は、前日から不穏な動きを見せていたようですが、メディアの関心はジョージア州の上院議員選決戦投票に向けられていたため、「ノーマーク」の中での事件となりました。

トランプはあくまで選挙結果を認めず、これに扇動されたデモ隊がガラス窓を叩き割って議事堂内に押し入り、議事進行を妨害したのです。これを受けて、1月20日のバイデン次期大統領の就任式が安全に実施できるかが懸念されています。就任式は行われるでしょうが、厳戒態勢となるのは避けられないでしょう。また、仮にトランプが平和的にホワイトハウスから退去しない事態となれば、これも歴史に残る不祥事となるでしょう。

それ以前の問題として、この日の事件により当面、1月20日までのアメリカにおける「権力の空白」が現実のものとなりました。

まず、議会占拠が発生してから数時間にわたってトランプ大統領は何もせず、ホワイトハウスでテレビを見ていたと報じられています。議会が占拠され、上下両院議員は全員がシェルターに緊急避難し、デモ隊が議事堂の周囲を囲むという危機的な状態に対して、何もしなかったのです。

扇動を続けたトランプ

当面は議会警察が対応しつつ、ワシントン市警察(MPDC)が急派されてデモ隊を牽制していましたが、大統領が指示をしないのでFBI(連邦捜査局)やATF(アルコール・タバコ・火器・爆発物取締局)などの連邦レベルの危機管理組織は動きが取れずにいました。それ以前の問題として、デモ隊に対して暴挙を止めよというメッセージすら出していなかったのです。

沈黙を守るトランプに対して、バイデン次期大統領は午後4時に全国中継のテレビで演説を行い、「これは民主主義への挑戦」だとしてデモ隊を激しく非難、同時にトランプに対して「今すぐ、テレビの前に出てきてデモ隊に解散を命じよ」と数度にわたって強く要求をしたのでした。

さすがに沈黙を続けるわけには行かなくなったトランプは、ホワイトハウスの前庭で録画したと思われる動画をツイッターにアップしました。その内容は、デモ隊に対して依然として「この選挙は盗まれた」という虚偽の扇動を続けていたのです。

さらに暴挙の後であるにもかかわらず、デモ隊に向けて「アイ・ラブ・ユー」などと行動を支持するかのような発言を行い、その上で流血を避けるために「静かに帰宅を」促すという中途半端なものでした。つまり現職の大統領が、連邦議会の議事進行を暴力によって妨害したデモ隊に対して、「理解を示した」という前代未聞の状況が生まれたのです。

こうした状況に対しては、ジョージアの2議席を民主党が取った今こそ、トランプを弾劾すべきという声がありますが、任期が残り2週間を切った現状では、弾劾して罷免する手続きは間に合いそうもありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

PayPay、米ナスダックに新規上場申請 時価総額

ワールド

トランプ氏、ベネズエラと「並外れた」関係 石油富豪

ワールド

トランプ氏のイラン合意状況整備に期待、軍事行動回避

ワールド

ロシア、米との経済協力分野選定 ウクライナ戦争後見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 10
    エプスタイン疑惑の深層に横たわる2つの問題
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story