ニュース速報
ワールド

焦点:トランプ税制法、当面の債務危機回避でも将来的な問題一層深刻化

2025年07月04日(金)10時31分

トランプ米大統領の減税・歳出法案が7月3日に米議会を通過し、米政府が短期的にデフォルト(債務不履行)に陥る可能性を回避したが、米国の長期的な債務問題は一層深刻化する見通しだ。写真中央は下院議員らと話すジョンソン下院議長。同日、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

[ニューヨーク 3日 ロイター] - トランプ米大統領の減税・歳出法案が3日に米議会を通過し、米政府が短期的にデフォルト(債務不履行)に陥る可能性を回避したが、米国の長期的な債務問題は一層深刻化する見通しだ。

下院の共和党議員が可決した法案は2017年のトランプ減税を延長し、国境警備と軍事費を増額し、メディケアとメディケイドを大幅削減し、政府債務を数兆ドル規模拡大させるだろう。トランプ氏はこの法案に署名し成立する見込みだ。

議員は減税・歳出法案の一環として、米政府の債務上限を現行の36兆1000億ドルから5兆ドル引き上げた。現行の債務上限は夏の後半に達すると予想されていたが、今回の動きはデフォルトを引き起こす懸念を和らげるだろう。

アナリストたちは財務省が債務上限を引き上げないか停止しなければ全ての債務返済義務を果たせなくなくなる「Xデー」とされる日について、8月末か9月初旬に到来する可能性があると予測していた。

しかしながら長期的には、今回の法案は概して米国債市場と米財政の健全性にとって悪い知らせととらえられてきた。中立的な立場のアナリストの分析によると、この法案は今後10年間で国の債務を3兆4000億ドル拡大させるという。

そうなると、ここ数カ月間で金融市場の価格変動を引き起こした主な要因となっている米国債の供給増加と需要減少を巡る懸念が強まるだろう。

「法案はまず常態化する財政赤字と高止まりする債務水準、そして第2はインフレという点に関して、米国債に対して構造的な懸念がある程度生じる一因となる」と、ウェリントン・マネジメントのマクロストラテジストのマイク・メデイロス氏は述べた。

ブラックロックは6月30日、外国人投資家の米国債に対する関心が既に薄れていると警告した。米国が毎週発行する5000億ドル相当の債券の需要が一段とさらに減少すれば、資金調達コストをさらに上昇させるリスクがある。

議会予算局(CBO)の試算によると、今回の法案で税収が4兆5000億ドル減少し、歳出が1兆2000億ドル削減され、1090万人が今後10年間で連邦医療保険を失うと見込んでいる。

法案はまた企業が設備投資や研究開発費を完全に償却するのを認めることで経済成長を促し、その他の減税措置も講じている。

しかしながら、一部の投資家はトランプ氏が「一つの大きく美しい法案」と呼んでいる法案に盛り込まれた景気刺激効果について、債務が重荷になって打ち消されてしまう可能性があるだろうと懸念する。

「一つの大きく美しい法案は企業収益の成長を加速させ、最終的に株価を押し上げるだろう。しかし、米国債の長期的な金利上昇につながり、数多くの債券投資が長期的にやや魅力を失う可能性がある」と、F.L.プットナム・インベストメント・マネジメントのチーフ・マーケント・ストラテジストのエレン・ヘイゼン氏は述べた。

10年物米国債利回りは連日下落していたが、2日は一部には財政懸念が投資家に売り圧力となったため上昇した。

ナショナル・アライアンス・キャピタル・マーケッツの国際債券責任者のアンドリュー・ブレナー氏は2日の10年物米国債利回り上昇について、政府の資金調達コストを法外につり上げて誤った政策を罰する投資家、いわゆる「債券自警団」が市場動向を注視している兆しだと指摘した。

<債務上限引き上げには安心感>

法案は米政府の債務上限の引き上げによって、米国債のデフォルトというテールリスク(可能性は低いが起きれば影響が大きいリスク)を回避した。米国債がデフォルトに陥れば世界の債券市場に壊滅的な混乱をもたらし得ただろう。

8月に償還を迎える一部の米国債の利回りはここ数週間、ほぼ同じ時期に償還を迎える短期国債の利回り以上に上昇しており、投資家が「Xデー」が近づく状況に神経質になっている兆しと受け止められた。

「(法案の議会通過で)債務上限リスクがある程度後退し、8月に償還を迎える債券の利回りが少しばかり低下するかもしれない」とメンフィスに拠点を置くレイモンド・ジェームズの債券資本市場ディレクターのヴィニー・ブロー氏は述べた。

債券市場の法案通過に対する反応は全体として比較的落ち着いていた。債務の拡大はトランプ氏が1月に政権に復帰して以来、これまで市場に織り込まれており、投資家の関心事はここ数週間、経済成長を巡る懸念に移ってきた。

法案の議会通過はその他の市場を動かす主な要因に比べれば二次的な要因だと話す市場参加者は確かに多い。S&P総合500種は2日、IT株の上昇と貿易交渉合意の進展が押し上げて過去最高値を更新した。

ここ数週間で経済指標が鈍化していたため、連邦準備理事会(FRB)が年内に利下げを実施するとの期待が高まっていたのもまた、株式市場と債券市場の楽観的なムードの一因となっていたが、3日の雇用統計が早期の利下げ期待に冷や水を浴びせた。

「市場を動かす主な要因はまず企業収益で、それからFRBだ」と、フェアフィールに拠点を置くダコタ・ウェルスの上席ポートフォリオマネージャーのロバート・パブリック氏は話した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%関税 主要コ

ビジネス

TSMC、熊本県第2工場計画先延ばしへ 米関税対応

ワールド

印当局、米ジェーン・ストリートの市場参加禁止 相場

ワールド

ロシアがウクライナで化学兵器使用を拡大、独情報機関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中