コラム

前代未聞の議会乱入で現実となったアメリカの「権力の空白」

2021年01月07日(木)14時00分

一方で、デモ隊が解散する前の午後4時半前後から、州兵、FBI、ATFのSWATチームなどようやく連邦の指揮命令系統が動き出して、治安維持部隊が集結を始めました。こちらについては、ニューヨーク・タイムズの伝えるところでは、動かないトランプを横目にマイク・ペンス副大統領が動員命令を出したとされています。

ペンス副大統領は、本来はこの日に行われるはずの選挙結果確認決議の議事進行役ですが、前日に「選挙結果を覆す権力は自分にはない」と言明して、事実上バイデン氏の勝利を認めています。また、デモ隊に対して「法の定めるところにより起訴されるであろう」と厳しく批判するツイートもしています。そして、FBIなどの部隊を動員したというわけです。

その上で、デモ隊が排除され、議事堂内の安全が確認されて後に審議が再開されると、ペンス副大統領が淡々と議事を進行するなかで、民主共和両党の議員たちがデモ隊を激しく非難していました。

こうした行動を受けて、ペンス副大統領には「この際、合衆国憲法修正25条を発動」して、副大統領と閣僚の過半数が「大統領は職務遂行不可能」と宣言して大統領の職務を停止する措置をすべきという声もあります。

トランプを職務停止に?

確かに、この条文の中には副大統領による「クーデター」を可能にする条項があり、これを発動してペンス氏が暫定的に大統領の職務を執行することになれば、バイデン政権への円滑な政権移行ができることになります。

ですが、実はこの「職務停止クーデター」に対しては、大統領の側からの「異議申し立て」が可能であり、その場合は議会が21日間をかけて審議をすることになっています。ということは、今回のケースには間に合わないのです。

つまり、議会に対して暴力を行使したデモ隊への支持を示唆したトランプは、民主共和両党からは事実上の絶縁をされたような格好となる一方で、そのトランプの大統領権限を停止することは、任期の残りの日数内では不可能ということです。これから1月20日までの期間、アメリカでは事実上、権力の空白が発生すると考えられます。

現実的には、ペンス副大統領と議会指導者が、バイデン次期政権のチームと協調しながら、これ以上の混乱を回避することになると思いますが、当然のことながら懸念はゼロとは言えません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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