コラム

日本の現状はアメリカの100倍マシ? コロナ禍の経済にちょうどいい「落とし所」はない

2020年11月17日(火)16時40分

感染が再拡大するカリフォルニア州で規制強化に反対する飲食店経営者ら Mike Blake-REUTERS

<日本の感染状況はアメリカより「二桁まし」だが、それでも感染抑止と経済のバランス点を政府が示すことは難しい>

アメリカにおける新型コロナの感染状況は、ここへ来て全土で感染が再拡大傾向となっています。その背景としては「ハロウィンや選挙といったイベント」「寒波到来により人々の活動が密閉された室内へ移動」といった要因を挙げることは可能です。

ですが、それ以前の問題として今回の大統領選がそうだったように、「感染対策を積極的に行うべきか、行うべきでないか」という根本的な問題が事実上の争点になる中で、「積極的に行うべきでない」という世論が有権者の半数近くいたという構造的な要因があるわけです。

その結果として、現在のアメリカでは数字としては、
「1日あたりの新規陽性者が15万弱、累計では1100万超え」
「1日あたりの死亡者が2000人前後、累計では25万弱」
という何とも苦しい状況に至っています。

そんなアメリカと比較しますと、日本の現状は厚労省発表(11月16日現在)によれば、
「1日あたりの新規陽性者1423人、累計では11万7809人」
「1日あたりの死亡者が2人、累計では1884人」
ですから、依然として二桁以上の違いがあります。アメリカの人口が日本の約3倍ということを考えても、その差は歴然であり全く比較になりません。

ファクターXは何か?

この「差」ということですが、ファクターXと言われるように、何らかの要因があるという推測がされていますが、今に至っても具体的なものは見つかっていません。ただ、一つ言えるのは、日米では政治とコロナの関係に大きな違いがあるということです。

日本の場合は、新型コロナウイルスの感染要因についての理解や、感染対策の必要性の認識について国民的な不一致はないと思われます。とりあえず共通の理解はあり、その上で経済対策をどの程度優先するかということに立場の違いがあるわけです。

一方でアメリカの場合は、いまだにマイクロ飛沫のメカニズムや「密閉、密集、密接」の危険性については十分な理解は広がっていません。そんな中で、感染対策を積極的に行うか、行わないかといった立場の違いが、こともあろうに大統領選の争点になるというバカバカしい状況があるわけです。こうした違いは、もちろん全てではないかもしれませんが、今回の感染拡大の深刻度の違いに関係していると思われます。

そんなわけで、日本の状況はアメリカに比べれば二桁近く「まし」であり、その背景には「コロナと政治」を取り巻く状況の差があるということは言えると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

米、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止 働き手不

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story