コラム

落選後のトランプは、恩赦? 逮捕? それとも亡命?

2020年10月20日(火)16時30分

トランプは選挙集会で落選後の「亡命」について言及した Jonathan Ernst-REUTERS

<反トランプ派は、在任中やそれ以前に行ったかもしれない違法行為について、厳しく裁かれるべきだと考えている>

仮にトランプ大統領が11月3日の選挙で落選すると、2021年1月20日の正午には大統領ではなくなり、法的には一般人となります。普通の大統領であれば、退任して悠々自適の生活を送ることになります。

ですが、トランプ大統領の場合はそう簡単には行かないでしょう。反対派としては、大統領の地位を失ったトランプは、在任中あるいはその前に起こしたかもしれない違法行為について、厳しく裁かれるべきだと考えているからです。

例えば、2018~19年にかけてはムラー特別検察官(当時)による「ロシア疑惑」捜査が行われました。この時は、ヒラリー・クリントンのメールサーバへの不正アクセスや、選挙資金の流用疑惑などが捜査されて、大統領は不起訴となりました。ただ、不起訴の理由は「容疑が晴れた」からではありませんでした。

そうではなくて、「大統領の犯罪は大統領でなければ起訴に値する」という判断がされ、その上で「大統領を起訴するには、大統領特権の濫用を証明する必要がある」という前提で、「それは証明できなかった」という説明がされています。ということは、この「ロシア疑惑」については一事不再理(刑事事件について一度、判決が下ったものを再度審理にかけることはしない)の原則で逃げられても、大統領でなくなったその後は、同様の行為については、違法であり起訴されて有罪とされる可能性は十分にあるわけです。

トランプへの容疑の数々

大統領への容疑としては、その他にも、

▼大統領の地位を利用したホテル事業等への利益誘導
▼様々なセクハラ疑惑
▼選挙資金における公私混同
▼長年にわたる脱税
▼外国金融機関、外国政府関係者に対して多額の負債を抱えることによる利益相反
▼極右集団などへの暴力行為の煽動

などがあります。反対派としては、このどれを取っても許しがたい内容ばかりです。では、仮に退任した後のトランプ大統領の処遇はどうなるのでしょうか?

1つの可能性は恩赦です。これには前例があります。1974年にウォーターゲート事件でニクソンは大統領を辞任して、フォードが昇任しました。そのフォードは、大統領権限を行使して前任者のニクソンを恩赦しました。この判断は、結果的に国民の怒りを買い、フォードが1976年の選挙で敗北する原因となったと言われています。

バイデンという人は、もしかしたら社会の分断や混乱を避けるために恩赦をすることを考えるかもしれません。ですが、民主党内の左派は「トランプ的なるもの」への徹底した批判を続けて来ており、恩赦などという発想は許さないでしょう。大統領制の権威と国の尊厳を守るために恩赦すべきという議論はあると思いますが、トランプこそは権威や尊厳を破壊した存在であり、徹底した断罪が必要という声の方が圧倒的になると思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story