アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下で必死の生き残り策

中国・北京にある高級ホテル、北苑大酒店のスタッフは毎晩、屋台を設置して出来たての料理を販売している。11日撮影(2025年 ロイター/Maxim Shemetov)
Claire Fu Alessandro Diviggiano
[シンガポール/北京 14日 ロイター] - 中国・北京にある高級ホテル、北苑大酒店のスタッフは毎晩、屋台を設置して出来たての料理を販売している。消費者や企業が旅行や会議、宴会の出費を減らす中で、落ち込んだ収入を穴埋めしなければならないからだ。
セールスディレクターのアンウェン・シュー氏は「今はもう、単に値下げすればお客さんが来る状況ではない。そもそも全く来てくれない」と語り、新たな収入源を見つけ出す必要性を強調した。
ソーシャルメディアやニュースサイトの情報に基づくと、北苑大酒店以外に中国全土で少なくとも14の高級ホテルがここ数週間で料理を屋台販売している。いずれも消費需要の低迷や企業の出張予算削減、宴会予約の低迷などのあおりを受けている。
シュー氏は、中国指導部が今年、公務員や共産党員の倹約や規律徹底を改めて打ち出し、大人数での外食の禁止やアルコール消費の制限などが課されたことも業界の打撃になったと説明した。
複数のアナリストは、こうしたホテルの姿勢は中国にデフレ圧力のリスクが定着する新たな兆候と受け止めている。
オーストラリア・メルボルンのモナシュ大学のハー・リン・シー教授(経済学)は「高級飲食業界、とりわけ五つ星ホテルは生き残り戦略の修正を図らなければならない。現在の事態は中国経済全体がかなり大きなデフレリスクに直面していることの表れだ」と指摘した。
3元(約62円)の朝食が提供され、スーパーマーケットでタイムセールが行われているのもデフレの兆しとみられる。
公式統計によると、中国のケータリング産業の売上高は6月が前年比0.9%増で、5月の5.9%増から減速した。今年上半期の北京の宿泊業界の利益は前年同期比で92.9%も落ち込んだ。
7月10日に屋台での料理販売を開始した北京維景国際大酒店で働くウェイ・ジェン氏は「飲食業界は相当な重圧にさらされている」と明かし、多くのホテルは増収を図るために屋台販売などの方法を採用していると付け加えた。
北苑大酒店のシュー氏は、一番の売れ筋としてこのホテルの看板料理であるハト1羽丸ごとのクリスピーローストを挙げた。屋台では38元(約780円)だが、ホテルのレストランで食事すれば58元だ。
7月28日に屋台を開いて以来、それまで1日当たり約80羽だったハトの売り上げがおよそ130羽に増えた。
一方でシュー氏は、ここ数カ月でレストランの個室の稼働率は100%から33%前後まで落ち込み、レストランの客単価は半減して100-150元程度になってしまったと説明。屋台の粗利益率は10-15%とケータリング業界の平均を上回るものの、ホテル内での事業の縮小を完全にカバーできていないと述べた。
<しぼむ高額消費>
コンサルティング会社アパーチュアチャイナ創業者のヤリン・ジャン氏は、経済が下降する中で消費者は引き続き割安さや目新しさを求める半面、高額消費には二の足を踏んでいると解説する。
北苑大酒店の近くに住み金融関係の仕事をしているというある男性は、このホテルの取り組みに理解を示すとともに、自身も豪華なホテルに泊まる回数が以前より減ったと話す。「重要なのは人々が十分な収入を得られていないということだ」と訴えた。
外資系でも重慶のJWマリオットや武漢のヒルトンなどのホテルが、屋台販売に乗り出していることが、ソーシャルメディアから分かる。
重慶の五つ星ホテル、リバー・アンド・ホリデー・ホテルは、先月に駐車場で屋台販売を始めて以来、1日当たりの収入が数千元から6万元に跳ね上がった。マーケティング・セールス担当マネジャーのシェン・キュヤ氏は、インターネットでホテルのブランド価値が損なわれかねないと批判されても意に介していない。
「どの業界も今年は厳しい局面にある。生き残りが最も大事で、なりふりなど構っていられない」と強調した。