コラム

日本の現状はアメリカの100倍マシ? コロナ禍の経済にちょうどいい「落とし所」はない

2020年11月17日(火)16時40分

けれども日本の場合は、それでも「うまく行っている」という認識が広まっているわけではありません。例えば菅内閣が取っているのは「コロナと経済のバランス」の追求だとしていますが、実際に行われている政策としては、厚労省は感染対策を行う一方で、経産省が主導した「Go To」キャンペーンは依然として続いています。

ですから、国全体の政策としては「自動車のアクセルとブレーキを一緒に踏んでいるようなもの」ということになります。そうすると、それは「ヒドい政策」だとか、「縦割り行政」そのものだとか、あるいは政権として「支離滅裂」だというような批判を浴びることになります。

けれども、コロナ禍の中の経済というのは、どこかにちょうどいいバランスの「落とし所」があって、自動車で言えばそこに停止してエンジンを切っていい場所があるのかというと、おそらくそれはないのだと思います。

事業者も金融機関も含めて、疲弊の限界に来ている地方経済を回すには、やはり「政府のカネを投入すると、消費者のカネが引き出されて何倍にもなって回る」という政策に「力を入れる」のは必要なのだと思います。社会に疲弊の色が濃く、それが自殺率の増加など危険な兆候も見せている中で、これはこれで必要なことです。

さまざまな思惑のせめぎ合い

その一方で、感染対策というのは気を緩めずに進める必要があります。経済優先で行くと言っても、アメリカの保守派のようにマスク無視、規制無視で行くわけにはいきません。ですから、これは綱引きの綱のようなもので、双方から全力で引っ張っているのでピンと張っているわけです。正確なバランス点があって、その場所に菅総理が立って支えれば綱がピンと張るわけではないのです。

もちろん、官邸としてはコロナと経済の両面の指標を日々検討しながら政策の「さじ加減」を調整しているのは間違いないと思います。ですが、政治のあり方として、「ここがバランス点」だと示しても、それで国民が納得して支持するというようには、なかなかいかないのだと思います。

結局のところ何とか経済を回そうという力と、感染を抑え込もうという力、さらには政権批判の材料探しをする野党や、思惑で動く一部の地方行政などの力も加わって、それぞれが別の方向を向きつつも、全体はバランスを取っているということが起こり得るし、現在の日本ではそれが起きていると言えるのでしょう。

日本におけるコロナ対策が、経済活動や学校、社会の活動を含めてアメリカと比較して、はるかに効果を上げているのはそのためかもしれません。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、半導体不足でメキシコの車生産停止 米・カナ

ビジネス

イスラエル、ガザ停戦協定の履行再開と表明 空爆で1

ビジネス

米韓が通商合意、トランプ氏言明 3500億ドル投資

ワールド

印パ衝突、250%の関税警告で回避=トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story