コラム

安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界

2019年11月21日(木)17時00分

長期政権の要因には「偶然の産物」もある Soe Zeya Tun-REUTERS

<野党勢力の方向性が分裂したこと、保守勢力を取り込んだことなどが要因だが、一方で保守派を取り込んだゆえの限界も示している>

安倍政権が11月20日、憲政史上最長の在職日数に達しました。あまり機能しなかった第一次政権を除外して、2012年末に発足した第二次政権だけでも、今年の年末には丸7年になるのですから、ずいぶん長いのは事実です。

これだけの長期政権を維持するには政治的な要因があるわけで、その要因を考えることは、現代の日本の政治状況を考えることになると思います。本稿では3つ指摘したいと思います。

1つ目は野党の分裂です。現在の野党に関しては、表面的には統治能力に欠けるというイメージが蔓延していることがありますが、それはあくまでも印象論であって、それ以上に分裂しているという要素が大きいと思います。

野党の分裂というのは、例えば大所帯であった新進党が瓦解した90年代、同じく二大政党制を自認した民主党が看板を掛け替えつつ崩壊した2010年代のように、政党が集合離散を繰り返したということではありません。そうした現象はあくまで結果論で、問題は政治的な対立軸がバラバラなことです。

現在の野党の立ち位置というのは、見事に分裂しています。

まず立憲民主党は左派ポピュリズムが軸です。軍事的には反米(疑米程度かもしれませんが)で一国平和の孤立主義ですが、経済は基本的には大きな政府論であり、主として引退世代を中心にバラマキを主張しています。妙に財務省にはフレンドリーで財政規律には熱心ですが、有権者に媚びて増税には消極的。その一方で官公労には甘いので、財政の辻褄を合わせるアプローチではありません。

一方で、日本維新の会は小さな政府論に右派的なポピュリズムを加えた政党ですが、産業構造の改革にはそれほど熱意はありません。軍事外交に関しては意外と穏健で、アジア諸国との関係については基本的にフレンドリーです。小さな政府といっても、官公労や地方公務員、福祉や文化政策の受給者といった権益を打破する「コストカッター」としてのイデオロギーが軸になっているだけで、財政再建や民間活力という意味では強い推進力を見せているわけではありません。

維新に近い存在として、希望もしくは国民民主の勢力がありますが、こちらは軍事外交では穏健であり、親米かつ西側フレンドリー。イデオロギー的な意味では右派ポピュリズムへの依存は限定的です。ただし、郵政、五輪、水産市場といったトピックを使ったピンポイントの既得権攻撃という意味では、技巧的なポピュリストとも言えます。基本的に小さな政府論ですが、維新ほどコストカットには情熱を傾けない一方で、官公労に対しては強く出られるという期待はできます。

ということで、本当に見事に分裂しています。ですから、政権与党に対抗するような結束はできないわけです。それだけではありません、安倍政権の自民党は、この3つの勢力の方向性に対して、うまく敵対することで求心力を得ているという面もあると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story