コラム

安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界

2019年11月21日(木)17時00分

2つ目は、安倍政権が保守イデオロギー勢力を「取り込んでいる」ということです。これは多分、政権が長期化している要因の核になる問題だと思います。例えば、第一次政権の際にはこの構造は比較的単純でした。当時の安倍政権は、本気で憲法改正へ突っ走ろうとし、また歴史認識問題では米ブッシュ政権から「二枚舌」を指摘されて不信感を買うなど散々な結果となりました。

ところが、第二次政権になってからは様子が違います。「意図せざる効果」なのかもしれませんが、保守イデオロギー勢力を味方につけることで、リベラルな政策を安心して進めることができているのです。

例えば、中国・ロシアとの関係改善、入管法の改正、新元号の前倒し発表、TPP11など自由貿易の推進、児童手当の拡充、オバマ米大統領との相互献花外交、靖国参拝の自制などです。もしかしたら女性宮家創設もやるかもしれません。こうした政策については、仮に中道左派系の政権が進めようと思えば、保守派が反対して立ち往生する危険がありますが、安倍政権の場合は「保守派を取り込んでいる」ことで比較的スムーズに進めることが可能になっています。

実態としては中道政権にシフトしているわけですが、それでも第一次の時から「祖父岸信介の名誉回復にこだわり、右派論客と交友を続け、戦後レジーム否定を口にする」ことで、安倍首相本人に関しては保守派イデオローグという印象を強く持ち、それゆえに頑固なまでに敵視する左派の固定層があります。

これも政治的には興味深いのですが、政策的には中道にシフトしても、左派が激しい敵視をやめないので、イメージ的には保守派は「やはり安倍政権は保守だ」と安心してくれる、そのために中道政策を強い抵抗なく進めることが可能になっている、そんなメカニズムも機能しています。ある種の偶然のなせるわざです。

3つ目は、産業構造改革への消極姿勢です。保守派に支えられつつ、中道政策を実施して長期化している政権ですが、結果的に保守派が支えていることから、構造改革を強く推進することはできていません。アベノミクスの「第3の矢」については、第二次政権になって7年かかっても成果が出ていない、これは支持基盤を考えるとやはり不可能なのだと思います。

そして、これが安倍政権の最大の問題であって、円安による「円建ての株価高騰」という「第1の矢」の効果がそろそろ賞味期限となる中では、最終的に政権の限界を示しているとも言えるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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