コラム

大阪府庁のPC強制シャットダウンは働き方改革ではない

2019年11月28日(木)16時00分

もう1つは、文書の簡素化です。例えば、会議の際に、議事録を作ることがあります。特に役所のカルチャーでは、「念のため全部記録する」ようにしていると思いますが、議会など議論そのものが公式的な意味を持つものはともかく、通常の会議であれば要旨を記録するだけで良いと思います。念のため、参加者に要約(ミニッツ)を事後回覧して承認を取れば、内容は公的なものとしてオーソライズできます、一字一句まで記録するのはムダです。

これに加えて、組織内の連絡文書では挨拶文などの儀礼を廃止するべきでしょう。自由競争の中で好感度獲得も重要な要素となる、外部への発信であれば挨拶は必要でしょう。ですが、官民の厳しいビジネスの現場で、特に組織内における連絡での挨拶文はムダです。そこが「バカ丁寧」になっている組織では、社内政治、庁内政治がはびこって他にも非効率なことが起きている可能性があると思います。

さらに言えば、連絡文書は紙でなくメールにして、しかも報告の場合に「マイナス情報」でも、「下から上への報告」でも、対面ではなくメールで済ませるようにすれば、大きな効率化になります。

先ほど議論したプレゼン文書について言えば、書類配布をしないのであれば、画像と文章とデータを複雑にレイアウトする必要もありません。具体的な提案を口頭で行うのであれば、スライドは問題提起だけでいいのです。データの分析が重要なら、生データだけをスライドで見せて分析は口頭で示せばいいのです。

PC作業を要求する文書の中で、意外と時間を食うのが帳票(帳簿・伝票類)です。帳票は格式が必要で、それがないと「証票としての権威の見える化」ができない、という発想自体が既に効率の敵です。具体的には罫線を止めるだけで、随分と帳票はスッキリしますし、作成時間は半分以下になるのではないかと思います。それ以前の問題として、帳票というのはそれこそフォームを標準化して、データ入力だけで完成するように徹底すれば良いのです。

以上は、アイディアの一例に過ぎません。ですが、このように業務を見直し、紙と会議を削減、特に組織の内部における「形式性、儀式性、政治性」を追放して、質実剛健、実務中心に業務と意思決定のスピードアップを図る、これが「働き方改革」です。執務時間の短縮や、退庁時刻の厳守というのはその結果として実現するものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story