コラム

9.11から20年──アメリカをむしばむビンラディンの呪いとは

2021年09月14日(火)12時15分
世界貿易センタービルに突っ込む旅客機

NY世界貿易センタービルに突っ込む旅客機と炎上するビル(2001年9月11日)  SEAN ADAIR-REUTERS


・9.11の衝撃は社会の分断とヘイトクライムの急増を招き、それはかえってイスラム過激派によるテロを増やすものでもあった。

・これに加えて、対テロ戦争の泥沼化はアメリカ人の政府に対する信頼を失わせ、陰謀論によって立つ白人極右の台頭も促した。

・こうした背景のもとで登場したトランプ前大統領は、ビンラディンによってエスコートされたといえる。

世界を震撼させたアメリカ同時多発テロ事件から20年。オサマ・ビンラディンの呪いはアメリカを今も縛り続けている。

対テロ戦争の幕引き

2001年の同時多発テロ事件から20周年に合わせて、アメリカはアフガニスタンだけでなくイラクからの撤退も進めている。オバマ政権以来、トランプ、バイデンの歴代政権は対テロ戦争の幕引きを図ってきたが、海外からの部隊撤退はそのシンボルともいえる。

しかし、それでもアメリカから対テロ戦争の影は消えない。

アメリカの心臓部が狙われ、約3000人の犠牲者を出した9.11とその後の歴史を振り返って、ジョージタウン大学のブルース・ホフマン博士は「残念だが、我々はこれまでより安全でなくなっているというのが悲しい真実であり、皮肉なことだ」と総括しているが、筆者もほぼ同じ意見である。

なぜアメリカは安全でなくなっているのか。そこにはオサマ・ビンラディンの呪いがある。

ビンラディンの呪い

ビンラディンは国際テロ組織アルカイダを率い、9.11を指導したことで世界最大のお尋ね者になったが、2011年5月に潜伏先のパキスタンで米軍に殺害された。

しかし、その死後もビンラディンの亡霊はアメリカを覆っている。

ここでいうビンラディンの呪いには、大きく二つの顔がある。第一に、9.11がアメリカの分断を大きくしたことだ。

2016年にピュー・リサーチ・センター(PRC)が行なった調査によると、「あなたが生きてきた時代のなかで、アメリカに最も大きなインパクトを与えた出来事は」という質問にアメリカ人の76%が「9.11」と回答した。これは「オバマ当選」(40%)や「ベトナム戦争」(20%)を大きく上回る第1位で、直接知らない若い世代を除くと、その衝撃の大きさを物語る。

そのインパクトが大きかっただけに、9.11後のアメリカではムスリムへの偏見や差別が広がった。

「イスラムは他の宗教より暴力的」という見方は、9.11の翌2002年段階ではアメリカ人の約25%にとどまったが、対テロ戦争が泥沼化するにつれてその割合は上昇し、今年5月の段階では50%にまで至った(PRC)。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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