コラム

9・11から20年目に起きた、現代の9・11を深刻に受け止めよ

2021年09月11日(土)18時30分

2001年9月11日にアメリカ社会は根底から変わった MIKE SEGARーREUTERS

<国内の武装勢力が外国のイスラム過激派以上の脅威になったアメリカ社会の危うさ>

あの教授はたぶんCIAだよ──私が通っていたのは、そんな冗談がクラスで飛び交うような大学だった。

クラスメイトのほとんどは政治家や外交官を目指していて、アメリカ大統領を8年間務めたビル・クリントンも私たちの大学の卒業生だった。

大学に入学して2週間。史上最強の大国の最も有名な政治学部で学んでいた私たちは、2001年9月11日、世界が変わりつつあることを漠然と感じることになった。その時、私は教室で授業を受けていて、教授の話に退屈し始めていた。

教授の携帯電話が鳴ったのは、午前9時の数分前だったと思う。教授の顔色が変わったのを覚えている。授業はすぐに打ち切りになった。授業開始の数分前にニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が激突したのだ。

その後、これが単なる事故ではなく、その旅客機がもともとはホワイトハウスに突っ込む計画だったらしいという噂が流れ始めた頃、ワシントン近郊の大学図書館にいた私は、近くにある国防総省の庁舎が燃え上がるのを目の当たりにした。

20世紀の冷戦期に共産主義国のソ連に人工衛星の打ち上げで先を越されたことは、アメリカ人の心理に計り知れない影響を及ぼした。「スプートニク・ショック」である。9・11同時多発テロは、私たちの世代にとってのスプートニク・ショックと呼ぶべき出来事だった。

アメリカ人は強い決意を持ってこの状況に向き合った。消防士や救助隊員は命の危険を顧みずにテロ現場に駆け付けた。マンハッタンの瓦礫撤去に参加したボランティアの活動は延べ310万時間に上り、取り除かれた瓦礫は180万トンに達した。

アメリカ人は、この出来事をきっかけに強い使命感と団結心を抱くようにもなった。セレブのゴシップに夢中になって気だるい夏を送っていた社会の雰囲気は一変した。世界で唯一の超大国は、もはや漫然と過ごすことを許されなくなったのだ。テロと戦うという使命に向けて一致結束することが求められるようになった。

そうした社会の雰囲気の中で、当時のブッシュ(息子)大統領の支持率は90%に達し、私が住んでいたリベラル派の多い地区でも多くの家が星条旗を掲げた。ブッシュ政権が始めたイラク戦争に野党・民主党の議員たちも賛同した。

この戦争は外交政策上の大失敗だったことが後に明らかになるが、そうした議員たちのキャリアに傷が付くことはなかった。ジョン・ケリーやヒラリー・クリントン、そして現大統領のジョー・バイデンも政治の中枢で活動し続けてきた。それほどまでに、アメリカは一枚岩でテロとの戦いに臨んできたのだ。

テロとの戦いは、アメリカの社会を大きく変えた。その結果、今日のアメリカでは、イスラム過激派のテロよりも極右の白人が起こすテロのほうが多くなっている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story