日本の株式市場には「イナゴタワー」という言葉があります。ある銘柄に個人投資家の資金が短期間で殺到し、株価チャートが塔のように垂直に伸びる。そして群れが去った瞬間、同じ角度で崩れ落ちる。作物に群がっては消えるイナゴの群れになぞらえた、いささか自嘲的な相場用語です。

熱狂そのものは、どの国の市場にもあります。ただ、これほど生々しい俗語が定着し、日常的に使われる市場はそう多くありません。日本市場の個人投資家がどう動きがちなのかを、この一語はよく言い当てています。

そして直近、この現象はAI半導体という分野で、これまでにない規模で再現されました。関連銘柄に資金が一方向へ集まり、上がるときは全体が一緒に上がり、崩れるときも一緒に崩れる。値動きが往復ではなく、一方通行の往路と復路になってしまったのです。

「投資しない国」から「一斉に投資する国」へ

なぜ日本市場では、これほど極端な集中が起きるのか。私は、個人投資家の能力の問題だとは考えていません。理由はもっと構造的なところにあります。

日本銀行の資金循環統計によれば、2025年3月末時点で、日本の家計金融資産に占める現金・預金の割合は51.0%。同じ時点で米国は11.5%、ユーロエリアは31.8%です。逆に株式等の比率は、日本が12.2%であるのに対し、米国は41.5%、ユーロエリアは25.3%となっています。

つまり日本の家計は、長い間「投資をしない」側に立ってきました。そして、そのまま数十年が経過した。国民の多くが、値動きのある資産を持ち続けた経験を積まないまま、いま一斉に市場へ入ってきています。

ここに空白が生まれます。市場に流れる情報の大半は「何を買うか」です。書店にも、SNSにも、ニュースにも、有望とされる銘柄名はあふれている。ところが「買った後にどうすればよいのか」を支える仕組みは、ほとんど整備されていません。

買った後の拠り所を持たない資金は、行き先を自分で決められません。だから、いちばん話題になっている一点へ吸い寄せられる。イナゴタワーとは、投資家個人の資質の問題ではなく、買った後を支える仕組みの空白が生んだ現象──私はそう捉えています。

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