分散は入口にすぎない──誰も「買った後」を見ていない

もっとも、三つの分散を実行しても、それだけでは足りません。分散はあくまで入口です。買って放置してよいわけではないのです。

日本の投資環境に最も欠けているのは、まさにこの「買った後」だと私は考えています。銘柄選定の情報は無数にあるのに、いま持っているものをどう扱えばよいのかを、一緒に見てくれる相手がほとんどいない。

考えてみれば、これは不思議なことです。家を買えば定期点検があり、車には車検があり、体には健康診断がある。買って終わりにせず、状態を定期的に確認する仕組みが、社会のあちこちに用意されています。ところが、老後の生活を左右しかねない金融資産にだけ、それがない。買った瞬間、投資家はひとり残されるのです。

アフターフォローとは、値上がりを言い当てることではありません。保有している資産がいまどういう状態にあるのかを定期的に確認し、当初の想定とずれてきたときに、そのずれに気づかせること。持ち続けるのか、見直すのか、いったん退くのか。判断が必要な局面に近づいていることを、本人が不安に飲み込まれる前に把握しておく。この地味な継続作業こそが、限られた元手を守る土台になります。

一点だけ申し添えておくと、途中で判断を見直すことは失敗ではありません。想定と現実がずれたときに手を打つのは、次に備える行為です。この当たり前が浸透していないために、含み損を抱えたまま何年も身動きが取れなくなる方が後を絶ちません。イナゴタワーの崩落局面で最も傷が深くなるのも、買った後に誰にも相談できず、判断を先送りしてしまった人たちです。

私はこれを、カーナビゲーションにたとえてきました。目的地までの道は一本ではありません。渋滞も、通行止めもある。そのつど「いまどこにいて、次にどちらへ曲がるべきか」を確認しながら進むこと。投資に必要なのは、出発前の完璧な地図ではなく、走りながら現在地を把握し続ける仕組みなのです。

「イナゴタワー」が過去の言葉になる日
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