コラム

「世界一自転車フレンドリーな都市」コペンハーゲンに学べること

2021年11月26日(金)19時15分

コペンハーゲンの道路はアムステムダムとも違う。アムステルダムよりもコペンハーゲンの方が自転車をよりクルマに近い軽車両と捉えているように感じる。自転車はクルマ以上に有益な移動手段で、速く目的地に到達できる便利なものだと認識していることがよく伝わってくる。

幅の広い自転車専用道は途切れることなく、自転車専用の信号も車道と同じように整備されている。それもクルマや公共交通よりも自転車が優先され、自転車で目的地に行く方が速く行けるように設計されているのだ。自転車利用者がショートカットに使える美しいデザインの橋も架けられており、クルマと自転車の立場が逆転している。

クルマを運転するドライバーと同じように、自転車に乗るサイクリストの交通安全への意識も非常に高い。スピードが遅い人は歩道側、速い人は外側。右左折や停止をする際には、クルマのウインカーのようにハンドサインを出す。

道路政策の意識も日本と異なる。安心して自転車に乗れるように安全な道路づくりを徹底している。特に安全性に対して敏感な女性が危険を感じずに自転車に乗れるよう配慮している。自転車やクルマが事故を起こしてしまうのは、道路インフラ側の責任だという意識が強く、事故原因を究明したり、定期的にアンケートを実施するなど、安全なインフラ作りに余念がない。

ここまで紹介してきたことは、コペンハーゲンの自転車政策でサイクリングの質(セキュリティ、安全性、移動時間、快適さ)が重視されてきたことの表れなのだ。現地で自転車に乗るとそれを体感できる。 

また、通勤・通学の移動手段の50%を2025年までに自転車に移行しようと高い目標を掲げている(2010年は36%)。買い物での自転車利用も推奨していて、スーパーや商業施設、そして市民と連携し、駐車場を増やすとともに、街路や駐輪場のデザインについても検討している。

遊びながら学ぶデンマーク式交通安全教室

自転車の交通教育もユニークだ。日本の学校で行われる交通安全教室は、交通ルールを教えたり、スタントマンが交通事故のデモンストレーションでいかに危険かを教えたりするものが多い。

しかし、デンマークの交通安全教室では「遊びながら学ぶ」がコンセプトだ。小学校入学前の子供たちは、自転車に乗って片手で先生の手や楽器にタッチしたり、飛んでくるボールをよけたり、落ちている輪っかを拾ったり。ゲームを楽しみながら、バランス感覚・運転スキル・協調性・危機回避能力を"自然と"身につけていく。多面的な自己開発を促しながら、他者を思いやる社会性を育むなど、日本式とは全く異なる。

kusuda211126_copenhagen2.jpg

筆者撮影

このデンマーク式自転車教室を日本でも広げようとするムーブメントがある。京都を拠点に活動する自転車活用推進研究会理事の藤本典昭氏や馬場誠氏などがけん引役となり、最近では全国各地で実施されるようになってきた。

このようにコペンハーゲンでは、単にカーボンニュートラルを目指すだけではなく、自転車を活用した質の高い暮らしや魅力ある都市を実現しようとしている。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story