コラム

路線バスに代わるAIデマンド交通は、ラストマイル対策の最適解か

2021年10月29日(金)19時40分

日本では、2016年7月に設立した公立はこだて未来大学発のベンチャー企業「未来シェア」がAIデマンド交通のシステム「Smart Access Vehicle Service(略称:SAVS、サブス)」を提供し始めてから、日本全国で導入が検討されるようになった。山形県天童市、熊本市、静岡県下田市、三重県亀山市、岐阜県多治見市などさまざまな地域で実証実験が行われている。

AIを活用したデマンド交通が登場した時期に、MaaS(Mobility as a Service)が注目されたため、MaaSと言えばAIデマンド交通を連想する人も多いだろう。

AIデマンド交通が登場し始めた頃は、すべてをスマートフォンのアプリ上で行うサービスが検討された。しかし、多くの地域としては、クルマの運転ができない高齢者向けのサービスとして検討しており、スマートフォンが操作できない高齢者が取り残される、利用者が伸びない、中山間地域などの人口密度の低い地域では持続可能なモデルがつくれない、などが今でも問題となっている。

AIデマンド交通をうまく使いこなす伊那市

このようななか、伊那市の事例は興味深い。伊那市は長野県の南部に位置する。南アルプスと中央アルプスの2つのアルプスに抱かれ、天竜川と三峰川の流れる自然豊かな街であるが、2006年に旧伊那市、旧高遠町、旧長谷村が合併したため面積は667.93平方キロメートル、人口は66,642人で(横浜市437.78平方キロメートル、人口3,776,179人)と、広大で人口密度も低い中山間地域だ。

kusuda211029_ina2.jpg

伊那市役所周辺の風景 筆者撮影

例に漏れず伊那市でも路線バスを入れていたが、乗車率が悪かった。その理由を調べると、バスの本数が少ない、バス停までが遠い、自家用車を運転するからだった。

伊那市ではAIデマンド交通の導入前に、自動運転の実証実験を行っていた。伊那市の自動運転実証実験の協議会会長を務めた名古屋大学の金森亮特任准教授から、民間事業者との議論の必要性や需要、それに最適なシステムとしてSAVSの話を聞いていた。自動運転は技術コスト面から導入は時期尚早との判断から、自宅から目的地までドアツードアで乗り合わせる新しい公共交通としてAIを導入したデマンド交通に至ったのだそうだ。

伊那市のAIデマンド交通の名称は「ぐるっとタクシー(ドアツードア乗合タクシー)」だ。2020年4月に西春近地区から始まり(台数4台、1乗車につき500円)、2021年10月から市内ほぼ全域を運行エリアにした(6エリア、12台、1乗車につき500円)。

ぐるっとタクシーの2021年4月1日から9月21日までの乗合率は、4月が28.6%、5月が29.8%、6月が30%、7月が32.8%、8月が36.8%、9月が35.6%とコロナ禍であったが、安定して推移している。

kusuda211029_taxi3.jpg

出典:伊那市

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、欧州諸国の「破壊的アプローチ」巡りEUに警

ビジネス

英製薬アストラゼネカ、米国への上場移転を検討=英紙

ワールド

米EV推進団体、税額控除維持を下院に要請 上院の法

ビジネス

マネタリーベース6月は前年比3.5%減、10カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story