コラム

路線バスに代わるAIデマンド交通は、ラストマイル対策の最適解か

2021年10月29日(金)19時40分
AIデマンド交通

路線バスよりコストを抑えることができるとして、多くの自治体が導入を試みているデマンド型交通(写真はイメージです) metamorworks-iStock

<需要ベースで配車されるデマンド型交通は運行ルートを固定しないため、バス路線にとらわれない移動を可能にする。典型的なクルマ社会だった長野県伊那市は、この交通形態をどう定着させようとしているのか>

近年ラストマイル*1のMaaSにAIで効率的な配車を行う「AIデマンド交通」が注目されている。一方、なかなか持続可能なモデルが見いだせない問題も浮上している。そんななか、広大な面積を持ち人口密度の低い地域にもかかわらず、長野県伊那市はAIデマンド交通で持続可能なモデルを構築しつつある。

路線バスからデマンド交通へ

日本では、高齢者の通院や買い物の足の確保のために、民間バス会社の路線バスの撤退後も自治体がコミュニティバスなどを運行させている。中部運輸局管轄区のある地域では、約9割の自治体がコミュニティバスを運行させているような状況にあるが、財政負担が大きく維持が難しくなっている。クルマに頼った暮らしを続ける地域では、バスに乗る習慣がなく、空気を運んでいると揶揄されるほどに高齢者の利用が少ないが、「ないと困る」などと自治体から要望されるため、廃線することはできない。

そこで多くの自治体が試みたのが、路線バスよりコストを抑えることができるデマンド交通だ。デマンド(Demand)とは「需要、要求」という意味で、乗りたいと要望があった場合のみ運行させる交通だ。地域の実情に合わせた、運行方法、運行ダイヤなどを自由に組み合わせた、さまざまなタイプのデマンド交通がある。運行ルートを固定しないので、路線バスよりも大きな範囲をカバーできる。そのため、コミュニティバスの課題を解決してくれる魔法の仕組みだと思われがちだ。

しかし、デマンド交通にも問題があり、導入している多くの自治体でうまくいっているとは言い難い状況にある。一般的に言われている問題は、路線バスよりも一人当たりの費用が高くなる、システムの導入コストもかかる、事前予約であるため利用者が伸びないなどだ。

AIを活用したデマンド交通の登場

デマンド交通の需要と供給を最適化して、非効率な部分を解消してくれるのはないかと、近年期待が高まっているのがAIの活用だ。

これは日本のみの動きではなく、Uberの乗り合いサービス「Uber Pool」、ベルリン市交通局が運行するデマンド型交通サービス「BerlKönig」、ドイツ・フォルクスワーゲンは乗合サービスの子会社「MOIA」を設立するなど、海外でもAIデマンド交通は注目されている。

────────────────
*1:鉄道やバスなど公共交通を下車したところから自宅までの区間のこと

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story