「完全に消し去られた」は本当か? トランプ政権がイラン核施設に14発のバンカーバスターを投下、その成果と疑問
The Puzzle Over Fordo

6月22日、攻撃について説明する米軍制服組トップのダン・ケイン統合参謀本部議長 AP/AFLO
<トランプ大統領が成果を誇るイラン核施設への大規模空爆──。だが、作戦の効果をめぐる見解は大きく分かれている。政治と情報の齟齬が、軍事的現実をどこまで歪めているのか>
米空軍は6月22日、イラン中部のフォルドゥなどにある核施設に重さ13トン余りのバンカーバスター(地中貫通爆弾)を14発投下した。これは地下に埋設されたウラン濃縮施設などを破壊する目的で行われた攻撃で、ドナルド・トランプ米大統領は標的は「完全かつ徹底的に消し去られた」と宣言した。
だが、この宣言には疑問の声も上がっている。米国防総省情報局(DIA)の分析官は爆弾投下が実質的な損害をもたらしたことを認めつつも、イランの核開発計画に壊滅的なダメージを与えたという見方には否定的だ。
24日には、今回の攻撃が「イランの核開発を数カ月遅らせた程度だった」というDIAの初期評価をメディアが伝え、トランプ政権と情報当局の見解の相違を印象付けた。
このように評価が分かれることは意外ではない。「戦闘損害評価」が一筋縄ではいかないことはよく知られている。過去の戦争でも敵味方の損害状況で軍と情報機関が激論を戦わせたケースは珍しくない。
偵察技術が発達した現代でも同様だ。1990年の湾岸戦争では、米軍の空爆がイラク軍に与えた損耗をめぐり軍とCIAの上層部が真っ向から対立した。
岩山をくりぬいて数十メートルもの地下に埋設されたフォルドゥのような施設に対する攻撃では、破壊状況の評価はなおさら困難だ。
こうした場合、情報機関は複数のツールや技術を駆使して評価を行う。当然ながら、まずは衛星画像を分析することになる。攻撃前後の画像を比較すれば、破壊されたトンネルや地形の変化から、画像には映っていない地下の施設の損害状況も推測できる。
加えて、より専門的な技術を使えば、施設から放出された粒子や電磁波から損害状況を推定することも可能だ。
影響は限定的な可能性も
こうした目に見えない痕跡を計測し分析する手法は「計測シグネチャー諜報」を意味する英語Measurement and Signature Intelligenceの頭文字を取ってマジントと呼ばれる。放射線量や地震計の数値などの微細な変化をキャッチし、偽装された施設のダメージを推定する手法だ。
これら新旧の解析手法を組み合わせれば、爆撃の効果をより詳細にモデル化できる。
昔からある情報源が有効な場合もある。スパイに限らず、直接・間接的に事情を知る人間がうっかり漏らすなど、人間が提供する情報は貴重だ。
特にイラン側が被害をどう評価しているかを知るには、Human Intelligenceを略してヒューミントと呼ばれる人的情報が役立つ。イランの当局者は、米軍の攻撃前にどれだけ機材が搬出されたかや、濃縮ウランが保管されている場所などを知っている可能性があるからだ。いわゆるシギント──通信傍受を行うSignals Intelligence(信号諜報)も忘れてはいけない。
これらの手法を全て駆使して解析を行えば、より包括的で正確な損害評価ができるはずだ。
しかし、こうした総合的な解析を試みても、米軍の攻撃がイランの核開発計画全体に及ぼした影響は評価し難い。フォルドゥなどの核施設が受けた物理的なダメージは十分な証拠が集まれば、ある程度推定できるが、イランの政策に及ぼした長期的な影響となると、そうはいかない。イランの指導層が状況の変化に今後どう対応するかは部外者はもちろんのこと、本人たちにも予測できないからだ。
核施設が受けた損害については、トランプは単純に投下された爆弾の量だけで作戦の成功を確信しているようだ。ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官が述べたように、「(13トン超の)爆弾を14発、標的に落とせば何が起きるかは誰でも分かる。完全な消滅だ」という理屈である。
だがフォルドゥが山中に埋設されているという事実はこの「常識」を疑う理由になる。しかもイランが攻撃前に濃縮ウランと専用機材を運び出したのなら、核計画に及ぼした影響は限定的かもしれない。
情報を政治利用する危険
トランプの直感が当たっているか、批判派の主張が正しいかは、現時点では不明だ。米国防総省がイランの核計画の後退を「数十年」から「1、2年」に訂正したように、核施設の損害状況もイランの核計画全体に及ぼした影響も正確には把握できていない。たとえ正確に分かったところで、イランが核開発を断念するかどうかは推測の域を出ないから、見解が分かれるだろう。
これが理想的な世界なら、政府と情報機関は確固たる信頼関係を土台に、それぞれの評価に疑問があれば激論を戦わせるだろう。こうした議論は政治的な対立とは切り離された状況で行われ、どちらの側も政治的な思惑なしに批判をぶつけ合う。
その上で政府は情報機関の評価を納得して受け入れ、政策決定に活用する。中東政策では賢明な決定を下すべき課題が山ほどあるから、こうしたプロセスは非常に有意義だ。
しかし現実にはそうはいかない。損害評価をめぐる議論は既に政争の具になっている。議会民主党は戦果を誇張しているとしてトランプ政権を猛烈に批判。これに対し、レビットは次の声明で応酬した。
「(情報機関の)評価なるものが......リークされたが、これは明らかにトランプ大統領をおとしめ、完璧に任務を成し遂げた勇敢な戦闘機パイロットたちの名誉を傷つける試みにほかならない」
政府と情報機関は緊張関係に陥りがちだが、今ほど関係がこじれることは珍しい。これについては主にトランプに責任がある。イランの核開発の現状に関するタルシー・ギャバード米国家情報長官の議会証言を、「彼女が言ったことはどうでもいい」と切り捨てたように、情報当局者を軽視するような発言を繰り返してきたからだ。
もっとも、それ以上に米政府と情報機関の相互不信の根は深く、特に冷戦終結後は悪化の一途をたどってきた。双方の信頼関係の欠如は情報が政治利用されやすい状況を生む。トランプは事実がどうあれ気に入らない分析結果を無視しかねないし、政権側が情報機関の幹部に圧力をかけて指示に従わせる可能性もある。
そうなれば誰の利益にもならない。情報機関の信頼性は傷つき、国家安全保障にも影響が及びかねない。イラク戦争後にジョージ・W・ブッシュ政権が経験したように、政治的な理由で情報操作を行えば、トランプ政権も痛烈なしっぺ返しを食らうことになる。
Joshua Rovner, Associate Professor of International Relations, American University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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