コラム

ベビーカーと車いすに厳しい日本の不寛容は、パラリンピックの自国開催で変わる?

2021年06月30日(水)18時20分
公共交通を利用するベビーカー利用者

バス車内にベビーカーのスペースが設けられるなど、改善は進んでいるが…(写真はイメージです) Masaru123-iStock

<バス車両の低床化やサービス介助士資格を持った駅員の急増などハード面でのバリアフリー化が進む一方で、ベビーカーや車いすユーザーの公共交通利用を不快に感じる人は依然として多い>

東京オリンピック・パラリンピックが間もなく開催されるが、モビリティの観点から期待するのは、海外のパラリンピック選手が日本に訪れることによって「心のバリアフリー」が育つことだ。

新型コロナウイルスの流行により、少子化は一段と加速したという。障害者、高齢者、さらにはビジネスマンも心身の不調を訴え、外出する体力・気力が落ちたという話もあちこちで耳にする。改めて人間にとって外に出て活動する重要性を知った。

コロナ収束後は健康維持のためにも積極的に出掛けたいところだが、欧米と比べてベビーカーや車いす利用者の外出難易度が高いという点が気になっている。

国や公共交通事業者はさまざまな努力をしているが「嫌な思いをする」という人がまだまだ多い。ベビーカー・車いす論争が起きるのはなぜなのか。

日本の公共交通に見る不寛容

障害者やベビーカーでの外出事情は国によって異なる。

宇都宮大学の大森宣暁教授の資料「ベビーカーでの公共交通利用に対する意識の国際比較」によると、東京のベビーカー対する意識の特徴として、ベビーカーを折りたたまずに乗車する人を不快・迷惑と感じる人の割合が高く、周囲の乗客による助けが少ないことが挙げられるという。

欧州ではベビーカーを折りたたまずに電車やバスに乗り込むことができ、「手伝いましょうか」と躊躇することなく手を差し伸べる周囲の乗客やその和やかな光景をよく目にする。これはベビーカーのみならず車いすに関しても同様だ。

駅構内や車内を観察していると原因が見えてくる。日本の首都圏における公共交通車内の利用者密度の高さ、高齢者や障害者に対する理解が薄い時代に作られたインフラや車両、子育て層や障害者への理解の低さが問題にあるように感じる。

コロナ禍にもかかわらず通勤・帰宅時間は混み合い、できるだけ他の人に当たらないように身体を縮こめて利用する。こうした利用者の我慢の上に首都圏の公共交通網は民間経営は成立している。少しでも多くの人に乗ってもらいたい、寿司詰め状態でもなんとか始業時間に間に合うべく乗り込もうとするため、スペースをとる車いすや泣く子供を乗せたベビーカーは嫌がられるのだ。

女性の社会進出や男性の育児参加の遅れもあり、通勤時間帯の公共交通に子供を連れてくることに対して違和感を抱く人も多いようだ。また子育て経験者の女性にも、自分たちの我慢してきた経験から、折りたたまずにベビーカーを乗り入れる若い子育て層に対して感情的になる人もいるという。一方で、譲られても「大丈夫です」と遠慮している場面も何度か目にしたことがあるが、周囲の好意や助けを受け取るのが下手なような気もする。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

経済に楽観的、金融システムには一部懸念も=FRB金

ワールド

石破首相「為替は財務相間で議論継続」、トランプ氏と

ビジネス

一定期間の金利据え置き「賢明」=クーグラーFRB理

ワールド

トランプ氏、中国からの小口輸入品免税停止を延期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ドラマは是枝監督『阿修羅のごとく』で間違いない
  • 3
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮兵が拘束される衝撃シーン ウクライナ報道機関が公開
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 7
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 8
    ドイツ経済「景気低迷」は深刻......統一後で初の3年…
  • 9
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 10
    連邦政府職員を「ディープステート」として国民の敵…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 6
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 10
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story