コラム

ついに始まった事業者のEV大転換...自動車産業の「改革」も待ったなしに

2021年04月27日(火)17時56分
充電中の電気自動車

MARIOGUTI/ISTOCK

<運送業者が相次いでEV導入を発表。すべての面でガソリン車を上回るEVが、自動車産業そのものにも構造改革を迫る>

運送大手の佐川急便が宅配業務で使用する軽自動車を全て電気自動車(EV)に転換すると発表した。2030年度までに切り換えを実現する予定だが、車両は全て中国で生産される。EV化が進むと自動車の開発や製造が容易になり、異業種からの参入が増えると予想されていたが、その動きが早くも顕在化した格好だ。

同社は現在2万7000台の営業車両を保有しており、このうち約3割(7200台)が軽自動車である。軽自動車をEVに切り換えることで、グループ全体の二酸化炭素排出量を1割削減したい意向だ。競合のヤマト運輸もEVトラックの部分導入を20年から開始したほか、日本郵便も25 年までに1万2000台のEVを導入する予定だ。

EVは内燃機関の自動車と比較して部品点数が10分の1になるともいわれており、劇的なコスト削減効果が見込める。大手部品メーカーである日本電産の永守重信会長兼CEOが、EV化によって「自動車価格は30万円になる」と発言して話題を呼んだが、技術動向を冷静に分析すればこの数字は決して誇張ではない。

かつてEVには、航続距離が短い、寒冷地で出力が落ちる、バッテリーの価格が高いといった欠点があったが、それは10年前の古い常識である。最新のEVはほぼ全ての面でガソリン車を超えており、事業者にとってはEV化が最も合理的な選択肢となっている。日本各地の地域バス会社も続々と中国製EVバスの採用を決めている状況だ。

日本の産業界にはどんな影響が?

ここで問題となるのが日本の産業界への影響である。EVは構造が簡単なので新興企業も簡単に開発できてしまう。

しかも、EVの基幹部品であるモーターと蓄電池は汎用品なので新たに用意する必要はなく、車体や電装系などは既存の部品メーカーが製造できる。EV時代においては、完成車メーカーと部品メーカーの境界線は限りなく低くなり、場合によっては完成車メーカーが単なる製造の下請けになる可能性も否定できない。

実際、佐川のEVも設計と開発は国内のベンチャー企業が行っており、製造については中国の広西汽車集団に外注している。家電やAV機器の分野では、国内企業が設計開発を行い、中国メーカーに製造委託するのはごく当たり前だが、自動車でもその流れが確立しつつある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税

ワールド

イラン産石油購入者に「二次的制裁」、トランプ氏が警

ワールド

トランプ氏、2日に26年度予算公表=報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story