コラム

BBCのジャニー喜多川「性加害」報道が問う、エンタメ界の闇と日本の沈黙

2023年03月16日(木)16時35分

だが一方で、大物映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンやロック歌手のゲイリー・グリッター、コメディアンのビル・コズビーのように、刑事裁判にかけられたケースもある。

時には彼らは「公然の秘密」のように振る舞い、自らの性癖をほのめかしたりひけらかしたりしてスリルを味わっているように見えることすらあった。コズビーはたびたび、セックス狙いで女性の飲み物に(催淫性の)薬を入れる話をジョークにしていた。事実、彼はデートレイプ・ドラッグを使っていた。

サビルは何度か、報道陣に「彼女、16歳って言ったんだよ!」と未成年者との行為をジョークにし、「来週には裁判にかけられる」などとふざけて語っていた。彼は自伝の中で、10代の家出少女を翌朝まで警察に返そうとしなかった、と豪語してさえいる。

彼らとは対照的に喜多川は、公の場を完全に避けていたので、そのせいもあって人々の目が虐待行為からそらされたのかもしれない。今やイギリス中で罵倒されるようになったサビルとは違い、喜多川は頻繁にテレビに出るような存在ではなかった。

事件と加害者に混乱した感情を抱く被害者

一般大衆はこれら疑惑の「社会的もみ消し」の主犯ではないものの、完全に責任を免れることもできない。例えばマイケルの音楽を愛するがためにマイケルの犯した事実を受け入れようとしないファンたちは、被害者の語る権利まで否定したことで、良くて妄想的、悪く言うなら悪意の塊と化した。

マイケルの犯罪を知ったことで彼の音楽が「汚された」と考えるかどうかは個人が判断すればいいが、ドイツのミュンヘンにあるように彼の「聖地」めいたものが作られているのにはギョッとさせられる。

被害者の側をついつい非難してしまう、という人間の厄介な傾向もある。ひどい事件を耳にすると、自分には決して起こらないことだと人は皆、考えたがるもの。だからこそ、人々は被害者がしたこと、しなかったことをあげつらおうとする。彼女は抵抗したり叫んだりしなかった。彼は同じ部屋で寝ることを受け入れた。性行為の見返りは名前を売ってもらうことだと理解していた...などだ。

こうして事件を「合理化」して考えようとすることは、明らかな真実を覆い隠してしまう。大人の男が子供に淫行すれば成人側の犯罪である、という事実だ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story