コラム

イギリスでコロナ禍がむしばんだもの

2021年10月05日(火)14時15分

最後の懸念は、イギリスの国民保険サービス(NHS)についてだ。欠点はあるものの、NHSはかなりまっとうで民主的。富める者も貧しい者も、重い病気にかかったり手術が必要だったり脚の骨を折ったり、単に抗生剤が必要なときは、医師の診察を受けて1ペニーも払わずに治療をしてもらえる。費用がかかるのは処方薬の代金だけ(それも同じ薬を市販薬で買うのよりかなり安い)。

多くの人々がNHSの愚痴を言うが、心の奥ではNHSの利点をよく理解している。たとえば、富裕層でさえカネを払ってNHS以外の自由診療を受けるのはあまり意味がないと思っているくらいだ。国外で病気になり、NHSで費用の心配をせずに信頼できる治療を受けたいからと、わざわざイギリスに帰国してきた人も何人も知っている(僕もその1人だった)。

残念ながら、パンデミックの負担増大によってNHSは今やほとんど機能していない。僕は以前に医師の診察予約がなかなか取れなかった話を書いたことがある。珍しくもなければ極端でもない事例だから、イギリス人相手ならあんな出来事は話そうとも思わない。百回以上もリダイヤルし続けてそれでも診察予約が取れないと言う話は日常的に耳にする。

癌の治療が延期に次ぐ延期になったり、診察を逃したなどという、もっと深刻な話もよく聞く。ここ1年以上、医師と「対面で」診察を受けたという人はほとんどいない。ほとんどがZoomか電話診療で、特に高齢者は安心できないことだろう。

パンデミックの間に人々は、感染拡大を防ぎ「NHSを守る」ためにステイホームを、と呼びかけられた。今になって人々は疑問を口にし出している。NHSは私たちを守ってくれるはずじゃなかったのか?

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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