コラム

12歳の子供に二次性徴抑制剤も...進歩派の極端すぎる手法と「崇高な大義による悪行」とは?

2025年05月08日(木)18時34分
ロンドンのトランスジェンダー支持デモ

「トランス女性は女性である」と掲げるデモ参加者(4月19日、ロンドン) CHRIS J RATCLIFFE―REUTERS

<より大きな善を成すためなら善悪の疑わしい行動も許される、との考えに基づき、環境活動家やトランスジェンダーの権利擁護活動家は法外な要求を掲げて過激な手段に出る>

信じ難いことに、僕はつい最近まで「noble cause corruption(崇高な大義による悪行)」という言葉を聞いたことがなかった。

僕は自分を英語という言語の達人であり、英語の用法には精通していると思い込んでいただけに、信じ難い思いに襲われた。


さらにお恥ずかしいことに、これまで僕は、まさにこの概念を説明するために何度も無駄な言葉を重ねていた――「つまり、何か重要な使命の追求のためなら正当化されると思って挑発的、過激、さらには違法な行為を実行する権利が自分にはあるのだと信じている様子」だと。

だから、「崇高な大義による悪行」は便利な簡潔表現だ。善悪の疑わしいことをしても、それがより大きな善を成すためだと信じての行動なら、人間は本能的にそれを許してしまうものだということを、多くの人が理解しているからだ。

「崇高な大義による悪行」という言葉で、例えば、警察官が有罪だと「確信している」人物に有罪判決を下すためなら、法廷で宣誓の下、自分には嘘をつく権利があると思ってしまう理由を説明することができる。でも多くの場合、「崇高な大義による悪行」という言葉は自称「急進派」や「進歩派」に当てはまるようだ。

環境活動団体「ジャスト・ストップ・オイル(とにかく石油を止めろ)」の活動家たちはイギリスで法律違反を犯すことで近年、特に目立っている。「気候変動は究極の犯罪だ!」ということで、石油業界に抗議するためならどんな行動でも正当化されるというわけだ。

変わっているのは、この活動には高齢者の割合が大きいこと。彼らは、自分たちの犠牲の崇高さから、さらなる正当化を得ているように感じているらしい。「気候変動が破滅的な結果になる頃には自分はもう生きていないだろう......私は未来の世代のために行動しているんだ!」

ところが彼らはその後、法律に従って拘留刑を受けるとなると、ショックを受けてしまうようだ(「私は関節炎に苦しむ77歳だぞ!刑務所なんかに入れるか!」)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スターマー英首相私邸で不審火、建物一部損傷 ロンド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、3万8000円回復 米中摩擦

ワールド

新ローマ教皇がゼレンスキー氏と電話、外国首脳と初対

ワールド

エジプト、スエズ運河通行料を割引へ フーシ派攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story