コラム

国歌斉唱で胸に手を当てる、なでしこジャパンに違和感

2019年07月10日(水)11時10分

2018年8月のアジア大会決勝で中国に勝利して優勝を飾ったなでしこジャパン Edgar Su-REUTERS

<サッカー女子ワールドカップを見ていて驚いた、日本人選手の「胸に手」。愛国心を見せつけるアメリカ的習慣がなぜ、いつから取り入れられた?>

先日僕が映画を観ていたとき、登場人物の1人がかの有名なジョークを口にした――世界には2種類の人間がいる。世界を2種類の人間に分ける人間と、分けない人間だ。

その日、僕はちょうど、人間を、あるいは「国民」を2種類に分けて考えていたところだったので、この言葉には思わずハッとした。国歌斉唱のときに胸に手を当てる国もあれば、そうしない国もあるな、と。

そんなことを考えていたのは、サッカー女子ワールドカップ(W杯)で日本対オランダ戦を見ていたときだった(日本はこの試合で不運に見舞われ勝利を逃したが、それはここでは話題にしないでおく)。試合開始前、僕はなでしこチームが『君が代』斉唱の間、右手を左胸に当てているのに気付いて驚いた。いつからこうなったのだろうか?

大まかにいえば、僕はこの「手を胸に置く」国々は警戒している。なんとなく、愛国心レベルが一段上がるように見えるからだ。いま危機にある国や、存在が脅かされている国(独立したのが比較的最近であるとか、巨大で脅威的な国と隣り合っているとか)の場合は、こうした行為を採用するだろうことも理解できる。でもそうでない場合、特に昔からの伝統でもなく突然取り入れている場合は、この行為はあからさま過ぎるように見える。

どこの国がやっていてどこがやっていないか、リストにしたことはないが、僕が思うに西ヨーロッパの国々でこれを習慣にしているところはないようだ。オランダチームはやっていなかった。イギリス人もやらないし、僕だって絶対にしないだろう。だが「胸に手を当てない」ことをもってして、これらの国々の愛国心を疑問視するということにはならない。むしろ、その愛国心をどう表現するか、そしてそれをある決まった形で表現することが要求・期待されているか、という問題だ。

イングランド選手はバラバラ

「胸に手を当てる」はアメリカの習慣であり、僕が以前にアメリカで暮らしていたとき、彼らの愛国心見せつけの度合いに違和感を覚えたものだった。例を挙げれば、国際試合だけではなく、ほとんどのプロスポーツの試合で国歌が流れるのも奇妙に感じた。アメリカを批判するとき、外国人だけでなくアメリカ人がアメリカ批判を口にするときでさえも、いかに気を使って発言する必要があるかを目の当たりにして、僕は衝撃を受けた。

1992年に僕が初めて日本に渡ったとき、君が代を斉唱する人がほとんどいないのは、独特な感じはするけど不自然とは思わなかった(あんなにゆっくりしたテンポの曲なら、上手に歌うのはそうそう簡単じゃないだろう)。月日がたって、これは変化していったようだ。おそらく今、日本は「2種類」の「もう一方」のほうに足を踏み入れかけている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story