コラム

町にあふれる星条旗にはうんざり!?

2009年05月27日(水)15時49分

Colin020509b.jpg

とりわけ祝日には通りは国旗でいっぱいになる

 僕がけっこう好きな英語の略語に「pda」がある。これは「public displays of affection」の頭文字を取ったもので、公共の場所で愛情を示す、という意味。この略語には、「不適切」な行為に対する不快感や気恥ずかしさも含まれる。例えば、電車の中でそばにいるカップルが熱烈なキスをしたときとか、友人カップルと夕食を食べているときに、友人が新しい彼女とベタベタしたり、猫なで声を出したときなんかに使う。

 僕に言わせれば、アメリカでは「pdp」が目立つ。「public displays of patriotism」。公共の場所で愛国心を示す、のだ。

 先週末、ニュージャージー州ののどかな町に住む友人を訪ねたとき、道の両脇にたくさんのアメリカ国旗が掲げられていることに気づいた。友人によれば、5月25日のメモリアルデーの祝日のために飾られたもので、7月4日の独立記念日までその状態なのだという。道だけではない。多くの家が前庭に星条旗を掲げている。友人の家も例外じゃなかった。どこもかしこも国旗だらけ。メインストリートを15分くらい歩いて数えたら、なんと84本もの国旗があった。

 ニューヨークでも、国旗はいたるところに見られる。政府機関だけでなく、オフィスビルにも、だ。ブルックリンのあるストリートでは、どの家も前庭に星条旗を飾っている。この通りの若者たちが外国での戦争に従軍しているのかもしれない。そうした感情は理解できるが、地下鉄のすべての車両に国旗がついているのはなぜだろう。全車両に星条旗がついていないと、どの国にいるのか忘れちゃうってわけ?

 イギリスでは、特定の場所以外で「ユニオン・ジャック」が見られることはほとんどない。旗があふれるのは、サッカーのW杯(ワールドカップ)が開催されるときくらいだ。もっともそれはイングランドの旗であって、イギリスの国旗ではない。これまで僕が訪れた国で、アメリカと同じくらい旗を飾っている家が多かったのはデンマークだ。祝日はもちろん、その家に住む人の誕生日にも国旗が飾られる。

 アメリカのスポーツイベントには国歌の演奏がつきものだ。国際試合だけじゃない。アメリカ人の友人が言うように、アメリカの国歌は音域が広くて歌いにくい。民主主義に誇りを持つ国の国歌を国民が歌えないとは、なんて皮肉なんだろう(アメリカ国歌の歌詞は米英戦争の戦いの激しさをつづったものなのに、メロディーはイギリスの酒飲みの歌ということをご存知だろうか。余談だが、これも皮肉な話だ)。

 ある野球の試合を見に行ったときのこと。女性歌手が「うるわしのアメリカ」という歌を歌うときに、観客に起立を求めるアナウンスがあった。これは愛国的な歌だが、国歌ではない。僕はとっさに起立するのをやめておこうと思った。いったいどこまでエスカレートするんだろう。ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・U.S.A」でも起立しなければいけないのだろうか。

 マイナー・リーグのなんでもない試合だ。そんな試合で、感傷的な愛国歌を起立して聴くなんて、なんだか気恥ずかしい。友人が自分の彼女をデレデレと見つめて、「彼女って最高だろ」なんて言ったときと同じくらいに。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NZ経済、第3四半期は前期比+1.1% プラス成長

ビジネス

中国リチウム価格1年半ぶり高値、採掘許可取り消しで

ビジネス

マイクロン、12-2月利益見通し予想大幅に上回る 

ワールド

「トランプ口座」に投資家ダリオ氏が寄付、ブラックロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story