コラム

菅政権の「やっているふり中東外交」では、日本の国益を守れない

2021年08月26日(木)17時06分
茂木外相のエジプト訪問

エジプトを訪問した茂木外相(8月16日) AMR ABDALLAH DALSHーREUTERS

<中東を歴訪してイランの新大統領とも会談した茂木外相だが、現実を直視できなければ利益を得ることなどできない>

8月15日からの中東7カ国・地域への外遊に先立ち、茂木敏充外相は記者会見で「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を確認したい」と述べた。これは中東でもそのような国際秩序が尊重されるべきことを前提とした発言であるが、そもそも中東はそのような状況にない。

7月末にはオマーン沖で日本企業所有のタンカーが攻撃され船員2人が殺害された。米英などはイランが背後にいると批判、ブリンケン米国務長官はイランが自爆ドローンを使用したと確信していると述べた。米中央軍の報告書はドローンがイラン製であることを示す証拠があるとしている。

しかし日本は外務報道官が「わが国として深く懸念しており、このような攻撃を非難します」と声明を出しただけで、イランを非難することはなかった。

ここ数年でドローン技術を向上させ「中東のドローン大国」となったイランは、自らドローン攻撃を実行しているだけでなく、中東各地のテロ組織や武装組織にドローンやその部品を提供し、攻撃を「代行」させてもいる。

英民間研究機関の紛争兵器研究所は昨年、イラン製のドローンの部品がバーレーン、イエメン、サウジアラビア、スーダン、イスラエル、イラク、シリア、アフガニスタンの8カ国で発見されたと報告。NPO過激派対策プロジェクトのアナリストも、自爆ドローン計画は地域への影響力拡大を目指すイランの中核的要素だと警告した。

イランの動きは世界を不安定化させる

世界のエネルギー資源の約3分の1はホルムズ海峡を通る船で輸送される。イランの動きは地域だけでなく世界を不安定化させる脅威でもある。

茂木外相の訪問先にはイランも含まれる。日本が本当に「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を重んじるならば、タンカー攻撃に強く抗議すべきだ。そこから目をそらしたままでは、茂木外相の主張する「中東地域の平和と繁栄へのコミットメント」など絵に描いた餅にすぎない。

日本のタンカーは19年にもオマーン沖で攻撃され、このときもアメリカはイランの仕業だと断定したが日本は一切抗議しなかった。イランは日本を「攻撃しても抗議すらしてこない最弱の米同盟国」と侮っている可能性がある。

8月15日にはイランの隣国アフガニスタンでイスラム過激派組織タリバンが全権を掌握する事態となった。タリバン幹部はイスラム法統治を実施すると宣言、またアフガニスタンだけではなく世界をイスラム法によって支配することを目指すとも述べた。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story