コラム

日本人が見誤る、「親日国」イランの危険すぎる実態

2021年07月28日(水)11時45分
イランのライシ次期大統領

ハメネイ師の肖像画を背にするライシ次期大統領 MAJID ASGARIPOUR-WANA-REUTERS

<「死の委員会」の一員とされるライシが次期大統領となるイランは、アラブ諸国も警戒するイスラム神権国家だ。見慣れた「解説」に惑わされてはならない>

イランは中東の大国にして伝統的「親日国」である――。この見慣れた「解説」は、イランの実態を理解する上では全く役に立たない。

イラン・イスラム共和国は1979年、親米のパーレビ王朝を「イスラム革命」によって打倒し、最高指導者たる最高位イスラム法学者が全権を掌握する神権国家として誕生した。

今年6月半ばには大統領選挙で保守派のイブラヒム・ライシ司法府代表が選出された(8月に就任予定)が、大統領は「行政官」にすぎない。真の権力者は選挙で選ばれたわけではない最高指導者アリ・ハメネイ師だ。大統領選挙はその真実を覆い隠し、体制は国民に支持されていると国際的にアピールするための茶番に等しい。

イランの国是はこの神権政治を広めるいわゆる「革命の輸出」と、「大悪魔」アメリカとの戦い、それにイスラエルの「殲滅」である。

そのために採用しているのが中東各国の武装組織に資金や武器を提供し、それを介して影響力、支配力を強化する「戦略」だ。これを統括するのが、イラン革命防衛隊(正規軍とは異なるイラン政府の軍事組織)の中で工作活動を担うクッズ部隊である。

米シンクタンク民主主義防衛財団は2018年、イランは年間160億ドル以上を武装組織などに供与していると報告。米国務省は昨年発表した世界のテロ動向に関する報告書で、イランを「世界最悪のテロ支援国家」と非難した。

イランはかねてより核兵器開発が疑われており、2015年にはそれを抑制する目的で米英独仏中ロとイランの間で核合意が締結された。しかしイランはその後、合意による経済制裁解除で得た資金を武装組織に投入し、イラク、シリア、レバノン、イエメンの4カ国を「準支配下」に置くに至った。周辺アラブ諸国がイランを強く牽制するゆえんだ。

2018年に米トランプ政権が核合意から離脱したのは、核合意ではイランの脅威を抑え込めないという現実を踏まえてのことである。

核合意によりイランの核開発を制限できているとの見方も国際社会にはあったが、この合意は武装組織支援や侵略行為、弾道ミサイル開発を制限していない上に、数年後にウラン濃縮制限を解除するいわゆる「サンセット条項」を含む。

現在バイデン米政権は核合意復帰に向けた協議を続けているが、これらの問題への対策を講じないままの復帰はイランに数年後の核保有を認めるに等しい。復帰と引き換えに制裁を解除すれば、またも武装組織支援が強化され、アメリカと同盟国に対する攻撃が激化する懸念もある。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホルムズ開放巡り約40カ国がオンライン会合、英国主

ビジネス

米2月の貿易赤字、4.9%増加 輸出過去最高も輸入

ビジネス

米新規失業保険申請、9000件減の20.2万件 一

ビジネス

米国株式市場・序盤=急反落、ダウ650ドル安 イラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 3
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トラン…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story