コラム

日本のリベラルメディアは和平が嫌い? 中東の新時代を認めたくない理由

2021年07月21日(水)12時00分
イスラエルのラピド外相(左)とUAEのアブダッラー外相

イスラエルのラピド外相(左)とUAEのアブダッラー外相 WAMーHANDOUTーREUTERS

<イスラエルとUAEは確実に和平と多様性への道を進んでいる。だが、日本のリベラルメディアはなぜかそれを頑なに認めたがらない>

イスラエルのラピド外相は6月29日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、イスラエル大使館開設式に出席した。昨年9月に米トランプ政権(当時)の仲介で両国が国交を正常化して以来、両国関係の進展は目覚ましい。政治・外交関係だけでなく経済、文化的な交流、そして医療や農業、教育、通信、技術、エネルギー、観光など多くの分野において協力関係が構築され、投資も進められている。

しかし日本のメディアはイスラエルとアラブ諸国の関係正常化が気に入らないようだ。5月のイスラエルとハマスの軍事衝突で、時事通信は「イスラエルが進めてきたアラブ諸国との和平路線にも打撃となったのは確実」、朝日新聞は「アラブ諸国に冷や水」と両者の和解を否定し、朝日は今回のラピドのUAE訪問についても「(パレスチナ問題よりも)経済関係の実利を優先」と批判的に報じた。

一方、ラピドとUAEのアブダッラー外相は7月、UAE紙に共同で寄稿した。「UAEとイスラエルの和平は単なる合意ではなく、生き方そのもの」というタイトルで、冒頭には次のようにある。

「世界はわれわれの差異がわれわれを定義することを期待してきた。われわれのうち1人はユダヤ教徒でもう1人はイスラム教徒、1人はイスラエル人でもう1人はアラブ人だ。こうした特徴はわれわれを人間として形作ってきただけでなく永遠の疑問を投げ掛けてきた。過去が未来を決めるのか、それともわれわれの運命はわれわれ自身に委ねられているのか」

協調と対話で平和を実現していく

この自らの疑問に対し、2人はこう答える。

「両国は2020年に国交正常化したことにより、これまでとは違うやり方を選択し中東地域の新しいパラダイムをつくっていこうと決めた。それは両国民の平和、安定、安全、繁栄、共存を共に追求するというもの。われわれは来るべき世代のためによりよい未来を育むべきであり、彼らのために平和な世界をつくるチャンスを逃してはならない」

中東、特にイスラエル・アラブ関係を規定してきた差異、対立、憎悪ではなく、協調と対話で平和を実現していくべきだ、という彼らの新しいパラダイム像は明白だ。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story