アメリカはまた「壊した後」を考えていない...イラク戦争が映すイランの未来
Iraq war’s aftermath was a disaster for the US – the Iran war is headed in the same direction
アメリカはフセイン政権を倒せばより良い政治体制が生まれると考えていたが(イラクに侵攻した米海兵隊、2003年3月) AP/AFLO
<体制の崩壊だけでは不十分だ。イラクでの失敗が、いまイランで繰り返されようとしている──>
アメリカは2003年にイラクに侵攻したとき、軍事的には全ての目標を達成した。数日で制空権を確保し、侵攻から3週間でサダム・フセインを権力の座から追い落とし、その独裁体制を崩壊させた(フセインは逃亡したが、9カ月後に拘束され、裁判にかけられ、処刑された)。
あれから20年以上がたった現在のイラクはどうなっているのか。
確かにフセインが率いたバース党は消えたが、代わりにイランと深くつながった政党や政治家が権力を握っている。さらにイランが支援する民兵組織が堂々と活動している。
アメリカが2兆ドルと4488人の命と引き換えに「再建」したはずの国は、アメリカの敵の影響圏に入ってしまったのだ。
イラク以外にも、アメリカは中東でいくつもの軍事作戦を成功させてきた。しかし軍事的な結果と政治的な結果が一致することは少ない。なぜなら、破壊と統治は全く別の事だからだ。それを混同する国は、自らを疲弊させることになる。
今、アメリカは軍事的にはイランの現体制を倒せるだろう。だが、それによって生まれる権力の空白は誰が埋めるのか。イラクの例は、その問いに答える手掛かりになる。
失敗に終わった国家再建
米国務省のテロ専門家だったポール・ブレマーが、フセイン体制崩壊後のイラクで連合国暫定当局(CPA)代表に就任したのは03年5月のこと。すぐにブレマーは、それからの20年間を決定付ける2つの決定を下した。まず、バース党を解体して、党員を行政府から排除するとともに、病院や学校の幹部も一掃することだ。
もう1つはイラク軍の解体。ただし武装解除はしなかった。失業したが武器は持っている約40万人の兵士が、イスラム教スンニ派反政府組織に吸い込まれていったのは無理もない。これは10年にわたり内戦が続く大きな要因となった。
ブレマーがバース党員を政府から排除したことは、直感的には理解できる。旧体制を築いた人たちを使って、新しいイラクを築くことはできないと考えたのだろう。だが、その論理は破滅的でもあった。
長年の政治学の研究から、国家のまとまりを維持するのはイデオロギーではなく、組織的な強制装置(官僚機構や制度的な記憶による)であることが分かっている。その仕組みを破壊すると真っさらな国が現れるのではなく、崩壊した国が残る。そして崩壊した国の権力は、いつまでも空白のままにはならない。
その空白を埋めるのは、最も組織的な能力が高い者だ。イランは1980年代にイラクと戦争をしたときから、イラクでその能力を築いてきた。イラクが二度とイランの安全保障を脅かすことがないように、シーア派の政治ネットワークや政党や民兵組織を育ててきたのだ。
アメリカがフセイン体制を崩壊させたとき、イランは既に20年にわたってイラクにインフラを構築していて、権力の空白を埋める準備は万全だった。
これに対して、アメリカがイラクで育ててきた反体制派はアメリカにパイプがあったが、イラクの有権者とのつながりは薄かった。イラクを統治した経験がなく、国内にネットワークも築いてこなかった。
アメリカの体制転換戦略の根本的な問題点は、既存の秩序を破壊してできた空白には、よりよいものが生まれると思い込んでいることだ。実際には最も組織が整っていて、最も武装していて、最も意欲が高い者が権力の空白を埋める。イラクの場合、それはイランだった。
では、今回イランに生まれる空白を埋めるのは誰か。
イランで最大の組織と武力と意欲を持つのは、イラン革命防衛隊だ。革命防衛隊は軍事組織であるだけでなく、イラン経済の推定30〜40%を牛耳り、建設会社や通信会社や石油化学企業を経営し、国内のインフラを構築してきた。
最高指導者アリ・ハメネイが殺害されて以来、革命防衛隊は国政の決定権を握っている。3月8日に新たな最高指導者に指名されたハメネイの息子モジタバ・ハメネイも、革命防衛隊と深いつながりがある。つまり旧体制の継続性を最大限に示す人物が選ばれたわけだ。
爆撃が現体制を強化する
革命防衛隊を解体すれば、イラン経済の崩壊は避けられない。しかし革命防衛隊を放置すれば、現体制の中核を温存することになる。
権力の空白を埋める主体として、在外イラン人組織も当てにならない。
最大の反体制組織ムジャヒディン・ハルク(MeK)も、故パーレビ国王の息子を担ぎ出そうとする王党派も、民主派グループも、アメリカとつながりはあるが、国内に支持基盤がない。それに外国から攻撃を受けると、国民はいかに嫌悪している体制であっても支持して結束しようとするものだ。
03年にアメリカが侵攻したときのイラクは人口が2500万人で、軍は12年に及ぶ制裁で弱体化し、核開発も実は進めていなかった。
現在のイランの人口は9200万人で、たとえ現体制が崩壊しても国内外に代理ネットワークがある。しかも昨年アメリカとイスラエルに爆撃されて以来、IAEA(国際原子力機関)も保安状態を把握しない高濃縮ウランが400キロ以上ある。
それなのにアメリカは、現体制を倒したら、誰がイランを統治するべきかについて明確な案がない。
ドナルド・トランプ米大統領は3月6日、自身のSNSで、イランは無条件降伏するべきだと主張するとともに、新しい指導者はアメリカが容認できる人物でなければならないと示唆した。だが、アメリカが気に入らない人物だった場合、拒否権を振りかざすだけでは具体的なビジョンを示すことにはならない。
つまり、アメリカはイランについてあれこれ望むことがあるが、それを実現する計画やプロセスはない。
もしアメリカの狙いがイランの核開発計画をつぶすことであるなら、なぜ昨年の爆撃から8カ月たってもイランには兵器級ウランの備蓄が大量にあるのか。つまりアメリカとイスラエルの攻撃は、イランの核開発問題を解決するどころか、より危険で、扱いにくいものにした。
もしアメリカの狙いが中東の安定であるなら、なぜイランを攻撃するたびにその範囲が広がり、今や地域全体に影響が及んでいるのか。
こうした問いに対して、アメリカは答えを用意していない。あるのは、破壊の論理だけだ。
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Farah N. Jan, Senior Lecturer in International Relations, University of Pennsylvania
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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