コラム

スーダン退避は「黒い関係」の果実

2023年05月16日(火)13時00分
スーダンを脱出してヨルダンに到着した避難民

スーダンを脱出してヨルダンに到着した避難民(4月24日) ALAA AL SUKHNIーREUTERS

<国際関係の現実はきれい事では済まない。フェアでもクリーンでもない関係の「おかげ」で、命拾いをすることもある>

国軍と準軍事組織・即応支援部隊(RSF)の戦闘により治安情勢が急速に悪化したスーダンから、在留日本人67人が国外へと退避した。これに先立ち日本政府は、ジブチに自衛隊機を派遣したのに加え、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に日本人の安全確保のための協力を要請、退避完了後には両国に謝意を表明した。

サウジとUAEはイギリス、アメリカと共に、2021年以来軍政下にあるスーダンの民政移管を進める4カ国グループ(クアッド)を構成する。なかでもスーダンに対し、特に大きな影響力を持つのはUAEだ。

UAEは過去数十年にわたりスーダンの主要な援助国であり続けてきた。政府系のアブダビ開発基金(ADFD)によると、同国は1976年以来スーダンに援助、投融資を提供しており、その範囲は農業、鉱業、銀行業、ホテル業など多岐に及ぶ。22年6月にはUAEがスーダンに60億ドルの投資支援を行うことで合意したとロイター通信が報じた。この取引を行ったのは国軍司令官アブデル・ファタハ・ブルハンだ。うち40億ドルは紅海の新港建設に充てるとされる。

UAEがスーダン軍とRSFの兵士を「傭兵」化してきた経緯もある。

UAEとサウジは15年、アラブ連合軍の基幹メンバーとしてイエメン内戦に参加したが、多数の兵士を動員したのはスーダンであり、その数はイエメン戦争のピーク時には4万人以上に達した。UAEは18年、RSF率いるモハメド・ハムダン・ダガロに多額の報酬を支払い、RSFの兵士数千人をイエメンに動員したとされる。

現在、スーダンで展開されているのはブルハンとダガロの権力闘争だ。RSFは13年、当時の大統領オマル・バシルを守る「親衛隊」として結成され、ダガロがその司令官となったものの、19年に彼はブルハンと結託してバシルを失脚させた。民政移管に向けRSFを国軍に統合する問題が争点になるなかで発生したのが、今回の戦闘だ。

スーダンは中東とアフリカの結節点に位置し、紅海に面した要衝であるだけでなく、天然資源の豊富な国でもある。その1つが金であり、金鉱の約4割はダガロの支配する西部に集中している。年間数十億ドル相当とされる金のほとんどはUAEに輸出され、ダガロはそこから巨万の富を得ていると報じられる。彼はほかにも家畜、不動産、民間警備会社などを保有し、リビア経由での「人身売買」にも関与しているとされ、その資金の多くはUAEで管理されていると、米ニューヨーク・タイムズ紙などが報じた。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナのエネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ一時最高値、政府再開の可能

ビジネス

米中に経済・通商協力の「極めて大きな余地」=中国副

ワールド

ECB総裁、5月からBISの主要会合議長に パウエ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story