コラム

日本と中東の男女格差はどちらが深刻か

2016年11月02日(水)19時28分
日本と中東の男女格差はどちらが深刻か

LEFT: Mie Ahmt-iStock., RIGHT: Creative-Family-iStock.

<男女格差ランキングで、日本は144カ国中111位。「G7最下位」と報じられたが、むしろ「中東レベル」と言うべきだ。中東といえば、欧米から「女性差別」と批判されるイスラム教の国々だが、実はそれらの国々よりも日本のほうが深刻かもしれない> (写真はイメージです)

 ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)が10月下旬に各国の「男女格差(ジェンダーギャップ)」を比較した今年の報告書を発表し、日本は世界144カ国中111位だった。朝日新聞は「主要7カ国(G7)で最下位」などという見出しで報じた。144位までのランキングを見れば、110位以下では中東の主だった国々16カ国が並んでいる。これを見る限り、日本の男女格差は「G7最下位」どころではなく、中東レベルである。

「中東レベル」というと、中東で男女格差が広いのは、欧米からは「女性差別」と批判されるイスラムという宗教が理由と思うかもしれない。しかし、一口に中東と言っても、国によってイスラムの厳格さの度合いにはかなりの違いがある。伝統的な王制・首長制の湾岸諸国ではアルコール禁止など厳格なイスラムが実施されている印象だが、エジプトやシリア、レバノンという共和制では、女性参政権もあり、アルコールも売られている。イスラムが男女格差を広げる要因ならば、イスラム色が薄い国の方が当然、男女格差が少ないと思うかもしれないが、実はそうとは言えない。

【参考記事】フランス警官、イスラム女性にブルキニを「脱げ」

 カタール(119位)、アラブ首長国連邦(UAE、124位)、クウェート(128位)など湾岸諸国が、エジプト(132位)やレバノン(135位)よりも男女格差が少ないという結果である。シリアにいたっては、最下位に近い142位である。

 さらにイラン(139位)やサウジアラビア(141位)という厳格な「イスラム体制」の国が、シリア、イエメン(144位)よりも男女格差が少ないという、意外な結果も出ている。これを考えると、男女格差の拡大には、イスラムではなく、戦争や治安の悪化がかなり影響しているのではないかという推測もできる。

 内戦や紛争が広がる中東にあって、湾岸諸国はまだ比較的平静を保っている。戦争が起こったり、軍事クーデターがあったりという暴力が吹き荒れる状況では、むき出しの力の論理という「男性的価値」で社会が動き、腕力では劣る女性が結果的に排除され、男女格差が開くという仮説が成り立つかもしれない。

 WEFの男女格差の指標は、朝日新聞によると、「経済活動への参加と機会」「政治への参加」「教育」「健康と生存率」の4分野の計14の項目で、男女平等の度合いを指数化して順位を決める、という。日本の男女格差を4分野ごとに見てみると、「経済活動への参加と機会」(116位)、「政治への参加」(103位)「教育」(76位)、「健康と生存率」(40位)という大きなばらつきがある。日本の女性は、教育でも健康でも男性とあまり差がないが、政治や経済からは露骨に排除されているという特殊な状況が浮き彫りになっている。

【参考記事】女性の半数が「夫は外、妻は家庭」と思っているのに、一億総活躍をどう実現するのか

 私はこの報告書について、ツイッターで「日本の男女格差は中東レベル」とつぶやいたところ、元「一部上場企業の執行役員」と名乗る人から、「利益を追求する企業にとって女性はハッキリ戦力ダウンになり企業同士がしのぎを削っている時、致命傷になりかねない。それが企業現場の現実であり本音」という反応があった。

 まさにこれが日本の企業の役員の「本音」なのだろう。こうして日本の企業で女性が排除され、「経済活動への参加と機会」(116位)という結果になっているわけだ。興味深いのは、この元「一部上場企業の執行役員」の反応の中に、「戦力ダウン」という言葉が出てくることだ。社員について「新戦力」「即戦力」という呼び方もあり、まさに「企業戦士」の発想であり、企業は「軍隊」となり、企業の競争は「戦争」というアナロジーとなる。中東では実際に戦争状態が広がっているために女性は排除されているのではないかと書いたが、日本の企業から女性が排除されるのは、日本社会、特に企業が「戦争」マインドという男性的価値で動いているからかもしれない。

日本も中東も責任ある地位は圧倒的に男性だが...

 長くなったが、以上は前置きである。本論は、日本とともに男女格差が世界最下位レベルの中東諸国でのイスラムと女性の社会参加について考えてみたい。

 私は新聞社で長年、中東特派員・専門記者として働いた中で、できるだけ、イスラム社会の女性たちに話を聞こうと思った。それは、私が新聞社に入社して6年目から3年半、家庭面の記者として働き、その間、主な取材相手が女性だったという若いころの記者経験がもとになっている。働きながら、家事を行い、子育てをし、地域活動を支えるという女性たちを取材し、女性の立場から社会を見ることで、日本社会の実相や歪みが見えてくるという経験だった。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 3

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本との関わりは?

  • 4

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 5

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 6

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 9

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 10

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 5

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 6

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 7

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 8

    香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター

  • 9

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 10

    差別から逃れるように暮らしていた? 戦前の日系人…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 3

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 4

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 5

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 6

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!