コラム

日本と中東の男女格差はどちらが深刻か

2016年11月02日(水)19時28分

kawakami161102-B.jpg

左:トルコの女性実業家のムトル・アルカンさん(2007年)、右:エジプトのイスラム組織の社会活動家のアッザ・ガルフさん(2011年)(写真提供:筆者)

 男性中心社会の日本では、官民の様々な場面で、新聞記者として取材する時、責任あるポストにいる相手はかなりの割合で男性となる。逆に家庭や暮らしでの男性の存在は薄い。その意味では、家庭面の記者というのは、まさに男性中心の世界から、女性中心の世界に移ったような体験だった。男女雇用機会均等法の施行(1986年)も働く女性の立場から取材し、これで日本の労働状況も画期的に変わるかもしれない、という期待を抱いた。しかし、それから30年たって、「経済活動への参加と機会」(116位)という数字を突き付けられているのである。

 男性中心社会という意味では、中東のイスラム社会も似ている。だからこそ、女性たちに話を聞くことで、社会の実相が見えてくるということも、日本での取材と通じるものがある。イスラム世界では政治や経済、行政で責任ある地位に立つのは日本と同様に圧倒的に男性が多いが、イスラムが宗教として強い影響力を維持しているのは、人々の日々の暮らしのルールとして食い込んでいるためである。

 家庭や暮らしを支えているのは女性たちであり、イスラム社会を支えているのは女性たちである。しかし、イスラム世界の女性たちの中にも、政治や経済、社会活動で指導的な立場に立つ人たちがいて、彼女らに話を聞くと、男性が社会の表舞台に立ち、女性は家庭を支えるという「役割分担」をよしとしているわけではない。

 トルコでエルドアン大統領が率いるイスラム系政党「公正発展党」の女性支持者で、父親が経営する業務用アイロンメーカーの輸出入業務を担当する女性実業家ムトル・アルカンさんは「イスラムが女性を家庭に縛ると解釈するのは誤っている」と語った。イスラムの預言者であり、開祖のムハンマドの妻ハディージャについて「彼女は、メッカで隊商貿易を行う女性であり、ビジネス・ウーマンでした」と続けた。

 90年代にイスタンブール市長だったエルドアン氏は、イスラム系政党の若手指導者だったが、「家族支援」を掲げ、女性の運動員が貧困家族を訪問して、貧困救済を実施することで草の根的に支持を広げた。イスラム世界では男性が他人の家庭を訪ねて、女性たちの相談に乗ることはできない。女性であれば家庭訪問をして、妻たちを支援することができる。エルドアン氏はイスタンブール市長になると、家族支援センターを開設して、女性相談員が貧困家庭を訪問するシステムを市の事業として導入した。

「文化が変わるには時間がかかる」と語った女性医師

 イスラム系組織で女性たちが慈善事業の中心となるのはエジプトでも同様である。2011年の「アラブの春」でエジプトのムバラク体制が倒れて、同年末に行われた議会選挙で、イスラム系政党の「自由公正党」が4割以上の議席を獲得して第1党になった。党の母体は穏健派イスラム組織のムスリム同胞団であるが、その活動を支えていたのは、草の根的な貧困救済活動であり、その活動を担ったのは女性たちだった。

 私はムスリム同胞団の取材をするなかで、カイロのギザ地区で「家族支援協会」という組織を主催しているアッザ・ガルフさんという女性社会運動家を知り、度々、取材した。自身の古いアパートを事務所とした協会には、いつも地域の女性や家族が集まっていた。ガルフさんはカイロ大学で社会政策を学び、学生時代から社会運動に関わっていた。事業のことや会の金銭的なことなど、どんな質問にも、受益者や寄付者の台帳を開いて、明確に証拠を示しながら説明してくれた。

 ガルフさんはエジプト革命後の議会選挙で、自由公正党から立候補して当選した。当時47歳。選挙で当選した議員498人のうち女性議員は9人に過ぎなかった。うち自由公正党の女性議員はガルフさんら4人で、当時、エジプト女性権利センターのアブコムサン代表は「女性候補の数ではイスラム系と世俗系に差はない」と語った。

 ガルフさんは「女性は社会の問題と共に悲惨な現実を生きている。そんな女性の声を議会に上げなければならない」と語り、議会での女性議員の少なさについては「男性中心の社会の在り方を変えねばならない。同胞団もそんな社会の一部だ」と言い切った。

 2008年に新聞でサウジアラビアに関する5回の連載をした時に、働く女性を通じて女性の社会的地位と、離婚した女性に取材して夫婦の問題を書こうと決めて取材した。いまでも女性の自動車運転が認められていない国である。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ミネアポリスで連邦捜査官が市民射殺 移民取り締ま

ワールド

米ロとウクライナの高官協議終了、2月1日に再協議へ

ワールド

トランプ氏、中国との貿易協定巡りカナダに警告 「1

ワールド

アングル:中国で婚姻数回復傾向続く、ドレス業界が期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 6
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 10
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story