コラム

インド工科大学で聞いた「インドでAIの呪いは起きるのか」

2018年09月13日(木)16時40分

NITIアアヨーグの若手が集まって、「人工知能のための国家戦略--#AIFORALL--」というディスカッションペーパーを2018年6月に出した。もともとは財務大臣がNITIアアヨーグにAIに関する国家プログラムの確立を求めたことがきっかけで、そのための提言を行うのがこのディスカッションペーパーの目的である。「#AIFORALL」というハッシュタグをキーワードにし、「すべての人のためのAI」を目指している。

AIは国防を含むいろいろな産業に影響を与える可能性がある。インドでも金融や製造業ではAIの活用が進み始めているという。このディスカッションペーパーでは、NITIアアヨーグの所管と照らし合わせ、政府によるテコ入れが必要という視点から、(1)ヘルスケア、(2)農業、(3)教育、(4)スマートシティとインフラストラクチャ、(5)スマートモビリティと交通、という五つの部門が分析・提言の対象になった。

そして、それを推進するための課題として以下の点を挙げた。

(1)AI研究開発において広範な専門知識が欠けている。
(2)データのエコシステムがないため、インテリジェントなデータにアクセスできない。
(3)必要なリソースを得るコストが高い割にAIの活用に関する意識が低い。
(4)データの匿名化に関する公的な規制が欠如するなどプライバシーやセキュリティの問題が残る。
(5)AIの活用と適用に関する協調的なアプローチがない。

こうした現状を打破するために基礎研究用と応用研究用の二つの研究機関を設置せよと提言している。

AIで仕事はなくなるか

インドの街中は、バス、車、リキシャ、バイクが入り交じって走り回っている。タクシーも走っているが、米国生まれの配車サービスUBERや地元インドのOLAのステッカーを付けた車も多い。15分程度の場所なら100ルピー(150円程度)で行けてしまう。リキシャならもっと安いだろう。インドでAIを使った自動運転が導入されれば、この人たちが失業してしまうかもしれない。人件費がいらない自動運転の配車サービスが主流になれば、運転手は路頭に迷うことになるだろう。試しに乗ってみたUBERの運転手は4000回も客を乗せたというプロフィールになっていた。

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インドの街を走る車

しかし、NITIアアヨーグの著者たちはそうはならないという。報告書の中では「キロメートルあたりの運転手のコストが低すぎるので、インドでは自動運転は経済的に実行可能ではない」と指摘している。この点について著者たちに改めて質問すると、AIの導入が一夜にして進むわけではなく、時間がかかり、移行期間がある。その間に新しい仕事が生み出されて人々は適応していくだろうと楽観的な見通しを示した。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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