コラム

サイバー攻撃を押しとどめる抑止理論はまだ見つからない

2017年09月20日(水)11時15分

Joseph Campbell-REUTERS

<北朝鮮が核実験を行った数日後、韓国でソウル防衛対話(SDD)が開催された。今年は43カ国から860人が参加した。欧米と中国では「抑止」の考え方が異なり、サイバー攻撃ではなおさらこれまでの概念が通じないことが明らかになった>

北朝鮮が6回目の核実験を行った数日後、韓国の国防部が6回目のソウル防衛対話(SDD)を開催した。今年は43カ国から860人が参加したという。四つの全体セッションに加え、二つの特別セッションが同じ時間に並行して開催され、全体で六つのセッションがあった。その裏で、各国政府の次官級会合が二カ国間、多国間でも開催された。外遊中の文在寅大統領は録画ビデオでメッセージを寄せ、宋永武国防部長官と李洛淵国務総理が開会式で挨拶し、徐柱錫国防部次官が終始ホストを務めた。

すれ違う安全保障の概念

多くの参加者の関心は、核実験、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮への対応だった。多くのスピーカーが北朝鮮への批判を述べる中、ロシアの研究者は、六カ国協議を再開すべきで、対話を深めるべきだと主張して異彩を放った。このロシア人研究者は個人の意見だと断っていたが、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の主張と一致している。

聴衆から、「韓国と日本も核武装を考えているか」という質問が出たが、韓国の外務次官は「全く核武装する考えはない。圧力を強化し、北朝鮮への制裁を強化するということを考えている。国際的な協力を得て北朝鮮の戦略的な計算を変化させることが重要だ」と答えた。

日本の研究者も、「日本は核政策を変える気は全くない。私たちは強い核アレルギーがある。私たちの優先順位は核不拡散条約(NPT)と国際原子力機関(IAEA)を支えることであり、国家安全保障、エネルギー政策、国民感情のいずれを見ても核武装の選択肢はない」と答えた。しかし、こうした質問が出ること自体、近年の北東アジア情勢の緊迫化を示唆している。

北朝鮮の問題に隠れがちだったが、中国の行動もまた議論の対象になった。海洋問題を扱った全体セッションでは、中国の研究者とフィリピンの研究者の考えが対立し、コメンテーターの日本の研究者からは、海洋における中国の問題ある行動の指摘もあった。

質疑応答において聴衆の中にいた米国の研究者が質問をした。「中国は南シナ海を軍事化しないと言っていたにもかかわらず、明らかに南シナ海の島々を軍事化している。どういう意味なのか。」これに対して中国の研究者は、「中国は南シナ海で戦争をする気はないということだ」と答えた。つまり、島々を要塞化することは「軍事化」ではなく、中国の考えでは軍事化とは戦争そのものを指すということになる。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story