コラム

国民の「安心」のため外国人を締め出す政府は、むしろ「不安」を拡散している

2021年12月16日(木)18時56分
西村カリン
外国人の入国

AP/AFLO

<オミクロン株の対策として根拠の乏しい「外国人の入国禁止」する政府は、「安心」を強調し過ぎて逆に人々を不安にさせる>

約20年前から、フランスのマスコミの特派員として日本の政治ニュースを担当している私だが、いまだに驚くことがある。日本の政治家の演説や記者会見の内容を分析すると、「安心」という言葉が必ず出ることだ。何か問題が起きたら、政府はその問題に直接対応することよりも、その問題によって国民の不安が起こらないことを重視し、国民を安心させるための発言をする。

自民党と公明党の政権だけでなく、東日本大震災のときの民主党政権もそうだった。もちろん国民を安心させるのは大事なことだが、それは政策なのか。答えは「ノー」だ。本来は適切な政策が前提にあるべきで、政策の1つの成果として国民の安心があるはずだ。

逆に、国民を安心させることが目的なら、それは正しくない、適切でない、根拠のない政策につながる可能性がある。残念ながら安倍政権も、菅政権も、岸田政権も国民を安心させるために根拠が不透明の政策を実施しがちだ。分かりやすい例が、新型コロナウイルスの水際対策だろう。

オミクロン変異株が発見されて間もなく、日本政府は水際対策を強化した。それは当然のことだ。ただ、どうやって措置を強化したかが問題だ。

岸田文雄首相は11月29日午後、「最悪の事態を避けるために緊急避難的な予防措置として、外国人の入国は30日午前0時から全世界を対象に禁止する」と発表。外国人の新規入国を停止し、入国人数を減らそうとした。林芳正外相は30日の記者会見で岸田首相の発言を引用しながら、「国民の皆さんの不安を予防的に取り除くという観点も踏まえて、今回の対応がなされたと私も認識している」と述べた(写真は12月2日、成田国際空港に到着して検疫を待つ人々)。

国民は安心してもウイルスは「入国」した

問題は外国人の入国を禁止しても、国民を安心させても、ウイルスが無断で「入国」したこと。科学的根拠の乏しい政策だから当然だろう。日本人の入国を認めるのに、外国人の入国や再入国を禁止するのは間違いだ。PCR検査を繰り返し、ウイルスのゲノム解析をして、長期間の隔離措置を取るほうが確実に感染拡大を防ぐことができる。

確かにそうした科学的な政策を説明しても、国民はすぐには安心しないだろう。でも国民に分かりやすい、受け入れやすい政策を重視するのは政治的な「デマゴギー」だ。根拠がない公約や政策に成果があると強調するのはデマゴギーにほかならない。

日本で「デマ」という言葉は「嘘」という意味で使われているが、デマゴギーは必ずしも嘘だけではない。デマゴギーは聞く側(国民)が望んでいることと、政治家が言うことが一致するもの。そこに根拠があるか、実現ができるかは別の話だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 10
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story