コラム

環境問題のPRアニメになぜ萌えキャラ? 「温暖化対策×セクシーな女の子」の安易さ

2020年10月01日(木)17時45分
西村カリン(ジャーナリスト)

環境省

<環境省が考えたキャンペーンは、2人の女子高生が地球に優しいライフスタイルを教えてくれるというコンセプト。男の子の母として、自分の息子にはこのアニメを絶対に見せたくない>

「経験したことのない暴風」「経験したことのない大雨」。ここ数年、日本の天気予報では、そんな表現をよく耳にする。

地球温暖化と気候変動で、記録的な豪雨や暴風による災害が相次いでいる。にもかかわらず選挙となると、防災についての議論は多少あるものの、気候変動と災害との関連性はあまり指摘されない。私の母国であるフランスでは数十年前から、エコロジーが政治のメインテーマの1つになっているが、日本にはエコロジーを看板に掲げて強い支持を得ている政党はない。

日本では、特に高齢の政治家は地球温暖化と気候変動の問題を気にしないのだろうか。環境省と環境大臣が存在するのだから、エコロジー政策が全くないわけでもない。ただ、どこまで成果が出ているのか。

私は最近、環境省が考えたキャンペーン「MOE 萌えキャラクター」(Ministry of the Environmentの頭文字にちなむ)を見て驚いた。女子高生「君野イマ」と「君野ミライ」という2人の主人公が地球に優しいライフスタイルを教えてくれるといったコンセプトだ。

日常生活のさまざまな場面で、「君野イマ」はぐうたらな態度を取るが、「君野ミライ」は正しい行動、いわゆる「賢い選択」を示す。地球温暖化の対策として何がいいか、何が悪いか、何をすべきかが、2人の会話で分かるはずだ。2017年3月から1~2分のアニメが21話制作され、部分的に英語版もある。

私は2人の男の子の母として、自分の息子には環境のために「賢い選択」をしてほしい。ただ絶対に、息子に「君野イマと君野ミライ」のアニメは見せたくない。学校で先生がこの環境省のアニメを子供に見せたりしたら、クレームをつける。

一体、誰が誰向けにこんなキャラクターを考えたのか。なぜ女子高生? なぜ「萌え」? そもそも萌えキャラというのは、男性向けの同人誌や動画などに登場するステレオタイプな女性キャラだ。なぜこんなに深刻な地球温暖化という問題を説明するために、セクシーな女の子の姿が必要なのか。男性のファンタジー?

私は女性として、こんな萌えキャラを見ると違和感を覚えるどころか気持ち悪い。過激派のフェミニストでなくても、女性として、母として、このPRキャンペーンに怒りを感じるのは当然だと思う。オタクは喜ぶかもしれないが、女子高生はこのアニメを見て喜ばないだろう。英語版もある理由は、海外のオタクにも見てほしいということか。このPRのメッセージは結局、「若い女性のライフスタイルが変わり、賢い選択をするようになれば地球を守ることができる」といった単純な内容にすぎない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story