コラム

トランプの宇宙政策大統領令と国際宇宙探査フォーラム

2018年03月06日(火)15時30分

復活した国家宇宙評議会議長 ペンス副大統領 2017年10月 Jonathan Ernst-REUTERS

<民間企業SpaceXの見事な有言実行のいっぽうで、グダグダなアメリカ政府の宇宙戦略。日本はただアメリカの戦略に乗るしかないという状況でいいのか...>

3月3日に東京港区のセレスティンホテルで開催された第二回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)に45ヶ国が参加し(前回の37ヶ国よりも8ヶ国増加)、共同声明を採択して閉幕した。

45ヶ国が一日だけの会議で議論をして共同声明の内容を深めるというよりは、ISEF2の開催までに声明の文言が調整され、各国の立場を発表しつつ、舞台裏で最終的なとりまとめが行われるというタイプの国際会議であった。ただ、共同声明の採択に至るまで開催国である日本は内閣府、文科省、外務省、経産省、JAXAが連携し、議題設定から声明文の最終調整まで中心的な役割を果たした。

そうした日本の努力は特筆すべきだろうが、この会議の意義や声明文のもつ国際政治的な重要性という点で見ると、「宇宙探査」と名付けられていても、かつてのアポロ計画のようにワクワクするものでも、各国が血眼になって月や火星に宇宙飛行士を送るといった熱気もなく、米ソ宇宙競争のようなピリピリした政治的な重みも感じさせないものであった。

2017年末にはトランプ大統領が最初の宇宙政策大統領令(Space Policy Directive 1: SPD-1)が発表され、中国とロシアが月探査で協力する協定に調印するなど、国際政治的に見れば宇宙競争の再来のように見える動きがあるにもかかわらず、かつてのようなワクワク感も熱気も重みもないのはなぜなのだろうか。

トランプ政権の宇宙政策

「アメリカ第一」を掲げ、かつてのアメリカの繁栄を取り戻し、国際社会における栄光を再び得ることを目指すトランプ政権にとって、宇宙政策は格好のテーマであろう。

オバマ政権時代にスペースシャトル計画を終了させ、アメリカは国際宇宙ステーション(ISS)にアメリカの宇宙飛行士を輸送する手段を失い、ロシアに宇宙飛行士の輸送を依存することとなった。オバマ時代に民間企業に有人宇宙輸送事業をアウトソースすべく、複数の企業を競争させ、最終的にイロン・マスク率いるSpaceXとボーイングが受注することになったが、その安全性に懸念があるとして、2017年には民間有人輸送が始まっているはずなのに、現時点に至るまでそれは実現していない。こうした屈辱的な状況を変えることは、アンチ・オバマで支持者を引きつけてきたトランプ大統領としても見過ごすことはできない。

そこでトランプ大統領は、ペンス副大統領を議長とする国家宇宙評議会(National Space Council: NSpC)を復活させ、ホワイトハウス主導で宇宙政策を進める体制を整えた。これは、NASAや国防総省、国家海洋大気局(NOAA)、連邦航空局(FAA)などに縦割り行政となっている宇宙政策を統括し、技術主導ではなく政治主導の宇宙政策を展開する布石であった。このNSpCの事務局長に就任したのは元NASAの幹部でジョージワシントン大学の宇宙政策研究所所長であった宇宙政策のベテランであるスコット・ペースであり、この人事もNSpCの期待を高めた。

しかし、ホワイトハウス主導の宇宙政策は、現在に至るまで大きな成果を出しているとは言えない。NSpCは第一回目の公開会議で、トランプ政権の最優先課題は月にアメリカの宇宙飛行士を再び送ることだとし、2017年12月11日に宇宙政策大統領令(SPD-1)を発表したが、その内容は2010年にオバマ政権が策定した国家宇宙政策のごく一部、正確には一段落を変更するだけであった。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story