コラム

権力と色欲の取引の果て......中国ネット騒然「名門医大4+4事件」とは?

2025年05月23日(金)14時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<最近、中国語のネット世界で話題になった「北京協和医学院『4+4』事件」が物語るのは、色と権力の取引で構築される中国特有のコネ社会や腐敗だけでない>

中国での特権階層の汚職事件は、妻や「小三(愛人)」が愛情のもつれや個人的な恨み、利害対立から男性の汚職行為を告発することで明るみに出るケースが圧倒的に多い。外部調査より劇的で世間の注目を集めやすく、中国語SNSでは「後宮反腐」「中国式MeToo」と揶揄されている。

最近、中国語のネット世界で話題になった「北京協和医学院『4+4』事件」はその典型だ。


4月、北京中日友好医院の医師の妻が、中国のSNS上で夫の不倫を実名告発した。不倫相手の若い女性は、中国を代表する名門医大である北京協和医学院の「4+4」課程を卒業した医学博士だった。

「4+4」とは、医学部以外の学部の卒業生でも、4年間の医学課程を学べば医師免許と医学博士号が取得できる制度のこと。2018年に北京協和医学院が試験的に開始したプロジェクトである。従来の大学での医学教育(5年間の学部+3年間の修士課程+3~4年間の博士課程)と比べ、就学期間がかなり短縮できる。もともとは他学部でも学んだ複合型の医学エリートを育成するプロジェクトだが、告発された女性は不正入学だけでなく、博士論文の盗作疑惑も判明した。

さらに、この若い女性の父親は国有企業の幹部で、母親もある大学の研究所の副所長であること、そしてほかの複数の「4+4」卒業生の論文も分量が少なく、質が低いのに博士号の審査を通過していたことが明らかになった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対アップル関税は韓国サムスンなどにも適用=トランプ

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平条件を提示する用意=外

ビジネス

米新築住宅販売、4月10.9%増で22年以来の高水

ビジネス

米企業、投入コスト・販売価格の上昇予想=セントルイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    「娘の眼球がこぼれ落ちてる!」見守りカメラに映っ…
  • 5
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 8
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 10
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story