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アングル:観光客の回復遅れるベルリン、「観光公害なく夏涼しい」とアピール

2025年08月24日(日)07時58分

 8月21日、ベルリンの観光当局は、観光公害や地元住民の抗議活動もなく、夏も涼しいとアピールし、観光客の誘致に本腰を入れている。 ブランデンブルグ門前で15日撮影(2025年 ロイター/Annegret Hilse)

Maria Martinez Rene Wagner

[ベルリン 21日 ロイター] - ドイツの首都ベルリンは、パリや南欧各地に比べて新型コロナウイルス禍後の観光客回復が遅れている。ベルリンの観光当局は、観光公害や地元住民の抗議活動もなく、夏も涼しいとアピールし、観光客の誘致に本腰を入れている。

観光局ビジットベルリンの報道担当者、クリスチャン・テンツラー氏は「私たちにはオーバーツーリズム(観光公害)の問題はない」と話し、「街は広く、人々は分散している。特に夏場にはベルリンの住民が出かけるため、かなりの余裕がある」と売り込む。最先端のアートシーンやプロイセン王国時代に建てられたサンスーシ宮殿、有名なテクノクラブなどの宣伝にも余念がない。

ベルリンは約400万人の人口を抱えている。ベルリン・ブランデンブルク統計局によると、ベルリンの2025年上半期(1―6月)の旅行者数は590万人、延べ宿泊数は1390万泊となり、前年同期比でそれぞれ1.8%減、2.9%減だった。

25年上半期のホテルの平均稼働率は52.8%と、観光業が新型コロナ禍からより迅速に回復したマドリードの65%やパリの79%に後れを取っている。

ベルリンはコロナ禍前の2019年の旅行者数が1400万人弱、延べ宿泊数は3400万泊に達していた。ドイツ経済研究所(DIW)の推計によると、ベルリンの間接効果を含めた観光業による経済効果は2023年に総生産額の4.6%にとどまった。

一方、パリとローマではそれぞれ観光業が総生産額の約14%、マドリードでは8%を稼ぎ出している。ベルリンはコスト意識の高いドイツ人旅行者に依存している傾向があるほか、25年上半期に訪れた外国人旅行者数は前年同期より4.7%減った。

<気候変動>

欧州連合(EU)欧州委員会共同研究センターの調査によると、観光客が訪れる夏のピークには熱波が響いて南部の観光地の魅力が失せている。一部の観光局は、気候変動の影響を受けて今後数年間の観光需要が北部へ移行することを期待している。

ただ、キャピタル・エコノミクスの欧州担当エコノミスト、エイドリアン・プレテジョン氏は「この傾向は今後数年間に出てくる可能性はあるものの、現時点ではほとんど証拠はない」とし、現時点ではオフピークの時期への需要シフトしか起きていないと指摘した。

ビジットベルリンのタエンツラー氏は、夏場の最高気温が通常ならば摂氏25度程度にとどまるベルリンは、涼しい天候を求める観光客に魅力的だと強調。「緑がとても豊かな都市で、水辺や泳げる場所が多く、日陰も豊富だ。今後、これらの要素がより重要になると思う」と話す。

業界関係者は、外国人旅行者数の増加幅が鈍化している一因は2020年に開港したベルリン・ブランデンブルク国際空港(BER)だと指摘する。

BERの24年の利用者数は前年比10.4%増の2550万人となったものの、BER開港に伴って閉鎖されたテーゲル、シェーネフェルト両空港の19年利用者数の計3570万人を大幅に下回っている。

ドイツ空港協会(ADV)のラルフ・ベイゼル会長は「ドイツの利用者数の回復は85%弱にとどまっている」と指摘する。 

格安航空会社(LCC)のライアンエアーは昨年8月、BER発着の航空便を2割削減すると発表した。ライアンエアーDACのエディ・ウィルソン最高経営責任者(CEO)はBERが年間5000万人の利用に対応しているとした上で、かかる税金への不満を繰り返し表明している。

航空運賃は上昇しているものの、ベルリンの飲食店やホテル、観光名所は比較的手頃な価格にとどまっている。

一方、ベルリンを訪れる旅行客数の低迷の要因について、ベルリン市の文化分野の予算削減に関し、数カ月にわたってネガティブな報道が繰り広げられたせいだと非難する向きもある。ベルリン市は25年の文化予算から約1億3000万ユーロを削減したがっている。

環境政党「緑の党」のジュリアン・シュバルツェ議員は「破滅的な予算編成がなされようとしている」と批判し、「文化が失われつつあるという印象が広がれば、私ならばベルリンへの旅行はやめるだろう」と訴えた。

ロイター
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