コラム

日本人考古学者を「クビ」にした中国の大学は、本を読まずに空気ばかりを読んでいる

2025年06月07日(土)17時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本の著名な考古学者を客員教授として迎えると表明した中国の四川大学が、愛国ネットユーザーの猛反対でこっそりお知らせを削除した。現在の中国の大学に自由な議論や研究はなく、監視と密告ばかりが横行している>

日本で最も有名な考古学者、宮本一夫氏が四川大学の客員教授に就任した──。

先日、中国の四川大学が公式ウェブサイトにこのお知らせを載せると、「中国の大学なのに、なぜ日本人を雇うのか? 四川大学の学長を即刻調査すべきだ」「四川大学は狼を招き入れ、文化スパイを導入している」などと、中国SNS上で愛国ネットユーザーたちからいわれなき非難が巻き起こった。


米中貿易戦争の最中、日中関係の改善と文化交流のために日本人学者を招聘するのは、中国の国益と外交理念に合致するはず。新華日報などの中国官製メディアも「四川大学が日本人学者を招聘した」と報じた。しかし、四川大学は反論もせず、このお知らせをこっそり削除した。

四川大学では同じようなことが2021年にもあった。中国社会についてのノンフィクションの名作『リバータウン』を書いたアメリカ人作家のピーター・ヘスラーを助教として招聘したが、米中関係の悪化で契約更新ができなくなった。

四川大学だけではない。北京のある名門大学の教授は「私の教室には常に6台の監視カメラが設置されている。授業中は言葉を慎重に選ばなければならない。ひとこと間違えれば罪の証拠になる」と、打ち明ける。

中国の大学では、キャンパスに入るときに政府の顔認証システムを通らなければならない。政府は学生の告発も推奨している。「日本人は完璧主義」「中国経済の70%は輸出に依存」「数学や物理は西洋から伝わった。マルクスも西洋のもの、家電製品も西洋の発明だ」......。この十数年間、こうした「不適切発言」によって告発され、解雇された教師は少なくない。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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