コラム

中国人女子学生のハーバード大卒業式演説が、左右から怒られた理由

2025年06月21日(土)19時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
ハーバード

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国の民主派とネット愛国者が、ハーバード大学の中国人女子留学生である蒋雨融のスピーチにブチ切れた。いつもは「水」と「火」のように対立してばかりの彼らが、ここで足並みを揃えた理由は?>

「反賊(ファンゼイ)」とは、中国共産党の独裁統治に反対する民主派や反体制派のSNS上での自称。一方、「小粉紅(シアオフェンホン)」は愛国主義者で、反賊とは逆の存在である。最近、この「水」と「火」のように相いれない2つの集団がどちらも、ハーバード大学の中国人女子留学生である蒋雨融(チアン・ユィロン)のスピーチにブチ切れている。

蒋は青島出身。今年の卒業式で、学生代表として「われわれの共通の人間性」と題してスピーチ。「敵も人間」と強調し、共通する人間性や人類運命共同体の理念を訴えた。


彼女の主張は正しい。数十年前なら絶賛されただろう。しかし、今は社会状況やネットの空気がガラッと変わって、この手の主張は受け入れられにくくなっている。

特に「反賊」側は、天安門事件や人権弾圧で深い傷を受けている。「敵も人間」とすれば、天安門事件で銃殺された若い学生、言論を理由に逮捕されたり、死に追いやられたりした人権弁護士や市民、「鉄鏈女(首に鎖を付けられた女性)」のように商品として売買された人々への裏切りではないか。また彼女が通ったハーバード大学ケネディスクールは、中国政府の多くの高官やその子供が卒業生だ。中国共産党の「海外党校」の卒業生の主張など、嘘に嘘を重ねた嘘ばかり......というわけだ。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀0.25%利下げ、5対4の僅差で決定 意見分

ワールド

ガザ地区で子どもの栄養失調急増、餓死者も増加 WH

ワールド

スイス、関税発効後も米国と協議継続、F35調達協定

ワールド

トランプ米大統領、インテルCEOの辞任要求 「利益
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 5
    経済制裁下でもロシア富豪はますます肥え太っていた…
  • 6
    バーボンの本場にウイスキー不況、トランプ関税がと…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    【クイズ】1位は中国で圧倒的...世界で2番目に「超高…
  • 10
    大学院博士課程を「フリーター生産工場」にしていい…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story