コラム

中国人女子学生のハーバード大卒業式演説が、左右から怒られた理由

2025年06月21日(土)19時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

特権エリートの傲慢でしかない

一方、蒋は高校からイギリスに留学し、父は中国の有名な環境系ファンドの執行主任を務めている。そのため、蒋がファンドの理事長の推薦を受けてハーバード大学に入学したという情報がネットに流出した時、小粉紅たちの特権階級や不平等への不満が爆発した。一般家庭の子供がどれだけ努力しても運命は変わらず、良い大学に入っても就職の不安や住宅ローンに苦しんでいる。それなのに、蒋は自国社会の不平等を全く無視して、ハーバード大学の壇上で「世界に生理用品を買えない女性が1人でもいれば、それは私の貧困。嫌がらせを恐れて退学する少女がいれば、それは私の尊厳の侵害」と言ってのけた。これは特権エリートの傲慢でしかない。

若きエリートである蒋は罪を犯したわけではない。図らずも、彼女のスピーチは「中国人の不幸共同体」を全世界に向けて紹介することになったが。


ポイント

人類運命共同体
自国と他国の利益に配慮し、共同発展を目指す中国政府の価値観。近年、習近平(シー・チンピン)国家主席が提唱。第2次大戦後の世界秩序への挑戦とも批判されている。

鉄鏈女
2022年に江蘇省の農村で小屋に鎖でつながれた女性の動画がSNSで拡散。女性は誘拐された後、繰り返し人身売買の被害に遭い、8人の子供を出産。精神障害を負っていた。

ニューズウィーク日本版 ハーバードが学ぶ日本企業
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月30日号(9月24日発売)は「ハーバードが学ぶ日本企業」特集。トヨタ、楽天、総合商社、虎屋……名門経営大学院が日本企業を重視する理由

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FBIが複数の捜査官解雇、デモ隊の前でひざまずく姿

ワールド

NZは現時点パレスチナ国家承認せず、停戦の取り組み

ワールド

米国務省、コロンビア大統領のビザを取り消し 「暴力

ワールド

トランプ氏、マイクロソフトに幹部解任を要求 前政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国はどこ?
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒りの動画」投稿も...「わがまま」と批判の声
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 6
    「戻れピカチュウ!」トルコでの反体制デモで警官隊…
  • 7
    国立西洋美術館「オルセー美術館所蔵 印象派―室内を…
  • 8
    「不気味すぎる...」メキシコの海で「最恐の捕食者」…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「最後の手段」と呼ばれる薬も効かない...「悪夢の耐…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story